第59回 現代書道二十人展より

―艶にして閑雅―

日本藝術院会員

井茂 圭洞

 

 第59回現代書道二十人展より井茂圭洞「琴/古事記」をピックアップさせて頂いた。新日展出品作の「畝傍山」を会場で拝見した瞬間、「えっ!!何この紙この色」という声が出てしまっていた。遠目には古い蝋箋紙に見えたのだが、ややピンクがかった朱赤に曲直の機微ある書線がくい込んで凛とした輝きを放っていた。気にかかりながら新日展東京展は終了。今回の現代書道二十人展で同じ料紙に再会したのである。ぐんと近づいてじっくり見ると、細い編目が見える。これは絹本、それも相当古いもので白くなっているところは折り目で、色落ちと相まって独特な風合いを醸していることが分った。まさに艶にして閑雅。一東の幹部にお聞きすると、井茂氏は以前からこれはと思える古い絹本を蒐集してきているのだと言う。おそらく作品構想と古絹本との組み合わせのイメージを重ねる楽しみがあるのだろう、それらがフィットした時、深い情感を内包した作品が生れる。作家は常に作品制作に繋がるイメージを常日ごろから持ち続けなければならないということである。
 さて、作品に目を移そう。単独の「枯」の配置と線の切れに神経が注がれ、2字目からは連綿で書き下し、2行目の「しが」まで渇筆で余韻を繋いでいる。3行目までの序章から一気に4から5行目の展開部へ。6行目の「ふれ」の2字のあとの余白(要白)が絶妙な時間性を含んで、散らしを入れた終章に。1枚ものの正に1回性。構想イメージのエスキースを横に書き手の緊張感が伝わってくるではないか。
 今展で、井茂氏は古事記をテーマに4点を出品されている。小字の「御酒」は程酔いの霧のなかに浮ぶように、「雁卵」は夕暮れの山に沿うように、文字が浮び流れる。そして8面に紹介した「孃子」は2紙の大作。1紙目の左下の大胆な余白の余韻をふさがないように2紙冒頭に渇筆の「し」が置かれている。1紙上部と対比して濃墨で締めた存在感は流石だ。
 現書壇をリードする実力が十二分に窺えた作品群であった。(松原)

 


枯野を塩に焼きしがあまりことにつくり
かきひくやゆらのとのとなかの海石に
ふれたつなづきのさや(琴/古事記)
50×74�B