自選Galerie 明日への夢 人の可能性について考える時、不思議なものだと思う。私がこれ程までに「書」にのめりこむことを、自らも想像しえなかった。 漢字・かなの古典学習に加え、詩文書の世界に足を踏み入れてからというもの、ずるずると、否、一気に深みに嵌り込んでしまった。 私の場合、書は心の発露である。漢字であれ、かなであれ、ましてや詩文書にいたってはそれ以外の何物でもない。 原爆資料館で見つけた松尾あつゆきの「原爆句抄」は、私の心をとらえて離さなかった。非常に重いテーマ、というよりも、人間の極限を詠んだ、その自由律の句に、戦争の実体験のない者の心にも、抉り取られたような痕跡を残した。書きたい、書かねばならぬ。数年を経て尚その思いは濃厚であった。「この世の一夜を母のそばに…」激しい思いに比例して筆は激しく走り暴れる。何とか心静に、と私は瞑目し、祈り、そして再びまた再びと。「かぜ 子らに火をつけてたばこ一本」漸くにして静かに筆を運ぶ。 感慨深い作品のひとつである。「松尾あつゆき〈原爆句抄〉」2002年
自選Galerie 明日への夢
人の可能性について考える時、不思議なものだと思う。私がこれ程までに「書」にのめりこむことを、自らも想像しえなかった。
漢字・かなの古典学習に加え、詩文書の世界に足を踏み入れてからというもの、ずるずると、否、一気に深みに嵌り込んでしまった。
私の場合、書は心の発露である。漢字であれ、かなであれ、ましてや詩文書にいたってはそれ以外の何物でもない。
原爆資料館で見つけた松尾あつゆきの「原爆句抄」は、私の心をとらえて離さなかった。非常に重いテーマ、というよりも、人間の極限を詠んだ、その自由律の句に、戦争の実体験のない者の心にも、抉り取られたような痕跡を残した。書きたい、書かねばならぬ。数年を経て尚その思いは濃厚であった。
「この世の一夜を母のそばに…」激しい思いに比例して筆は激しく走り暴れる。何とか心静に、と私は瞑目し、祈り、そして再びまた再びと。「かぜ 子らに火をつけてたばこ一本」漸くにして静かに筆を運ぶ。
感慨深い作品のひとつである。
「松尾あつゆき〈原爆句抄〉」2002年