第4回蛙園会書展が開催され、国立新美術館での楽しみの書展として定着しつつある。それだけ本展に集う作家達の発展的研鑽に期待をよせられているからであろう。その中心に、女性初の日本書芸院理事長に就任し、凛とした所作で4年に亘り業務を成し遂げてきた土橋靖子さんがいる。2024年3月に女性書家初の日本藝術院会員に就任し、昨年はユネスコ関連の万博イベントをやりきった。今年3月末には、日本外務省事業「にっぽんの心」語り手派遣事業の一貫として、パリのユネスコ日本政府代表部主催による書道講演会に、その講師として日本書道文化協会副会長の肩書きで、土橋さんが招かれた。各国のユネスコ関係者の出席の中、3月23日にパリ日本文化会館、24日にはユネスコ日本政府代表部大使公邸において「書道の伝統と魅力」と題した講演と作品揮毫がおこなわれた。もちろん今年12月に行われるユネスコ無形文化遺産登録の審議・決定に向けての大きなデモンストレーションであり、主催者と招待諸氏の現地での高評価は大きな意義を持つものと思われる。さて、今展の作品に目を向けよう。六曲屏風の6紙に1首の超大作。10メートル引いて眺めても、凛とした骨格に支えられた大字が、潤渇の機微の対比にゆらめきながら目線を1紙毎に最終まで誘導していく。近づくと、青みを帯びたビロードのような深みある紙が不思議な輝きを放つ。「葛飾の真間の入江に打ち靡く玉藻刈りけむ手児名し思ほゆ」この歌は、万葉集巻3_433 山部宿禰赤人の二つの反歌のひとつである。この歌に先立つ長歌は巻3_431で、真間を訪ねた思い「手児名伝説」を詠っている。実はこの真間の物語は、土橋さんが日本藝術院賞を受賞した作品「かつしかの里」発表前から始まっており、2014年東京水穂展に、虫麻呂の反歌を書いている。出生地である千葉・市川の真間の伝説、歌を書きとめておきたいと言う気持ちがあったのだろう。アララギの伊藤左千夫の歌は、正に真間の情景の活写に他ならない。だから、文と書の呼吸を自然に繋ぐことが出来たのだ。藝術院賞受賞記念展で真間の入江を思わせる35×274cmにおよぶブルーの料紙に虫麻呂の長歌、反歌をいのち毛を効かせた細字で書き下した作品が思い浮かぶ。そして、今回の超大作。第3回蛙園会書展前の第69回現代書道二十人展に中作品として同じ歌が出品されている。再び赤人の長歌を軸とした「真間」の作品群が見られるかもしれない。さて、日比野五鳳の書法の研究を根幹においた蛙園会のこれからの歩み、五鳳翁の多様な書域を会員夫々の息にどう取り込ますか、土橋さんの課題でもあると思う。(松)「葛飾の真間」
第4回蛙園会書展が開催され、国立新美術館での楽しみの書展として定着しつつある。それだけ本展に集う作家達の発展的研鑽に期待をよせられているからであろう。その中心に、女性初の日本書芸院理事長に就任し、凛とした所作で4年に亘り業務を成し遂げてきた土橋靖子さんがいる。
2024年3月に女性書家初の日本藝術院会員に就任し、昨年はユネスコ関連の万博イベントをやりきった。今年3月末には、日本外務省事業「にっぽんの心」語り手派遣事業の一貫として、パリのユネスコ日本政府代表部主催による書道講演会に、その講師として日本書道文化協会副会長の肩書きで、土橋さんが招かれた。各国のユネスコ関係者の出席の中、3月23日にパリ日本文化会館、24日にはユネスコ日本政府代表部大使公邸において「書道の伝統と魅力」と題した講演と作品揮毫がおこなわれた。もちろん今年12月に行われるユネスコ無形文化遺産登録の審議・決定に向けての大きなデモンストレーションであり、主催者と招待諸氏の現地での高評価は大きな意義を持つものと思われる。さて、今展の作品に目を向けよう。
六曲屏風の6紙に1首の超大作。10メートル引いて眺めても、凛とした骨格に支えられた大字が、潤渇の機微の対比にゆらめきながら目線を1紙毎に最終まで誘導していく。近づくと、青みを帯びたビロードのような深みある紙が不思議な輝きを放つ。「葛飾の真間の入江に打ち靡く玉藻刈りけむ手児名し思ほゆ」この歌は、万葉集巻3_433 山部宿禰赤人の二つの反歌のひとつである。この歌に先立つ長歌は巻3_431で、真間を訪ねた思い「手児名伝説」を詠っている。
実はこの真間の物語は、土橋さんが日本藝術院賞を受賞した作品「かつしかの里」発表前から始まっており、2014年東京水穂展に、虫麻呂の反歌を書いている。出生地である千葉・市川の真間の伝説、歌を書きとめておきたいと言う気持ちがあったのだろう。アララギの伊藤左千夫の歌は、正に真間の情景の活写に他ならない。だから、文と書の呼吸を自然に繋ぐことが出来たのだ。藝術院賞受賞記念展で真間の入江を思わせる35×274cmにおよぶブルーの料紙に虫麻呂の長歌、反歌をいのち毛を効かせた細字で書き下した作品が思い浮かぶ。
そして、今回の超大作。第3回蛙園会書展前の第69回現代書道二十人展に中作品として同じ歌が出品されている。再び赤人の長歌を軸とした「真間」の作品群が見られるかもしれない。
さて、日比野五鳳の書法の研究を根幹においた蛙園会のこれからの歩み、五鳳翁の多様な書域を会員夫々の息にどう取り込ますか、土橋さんの課題でもあると思う。(松)
「葛飾の真間」