―中原中也「山羊の歌」より―● 10月24日~30日 ● 船橋・滝不動スタジオM 近代文学に書の題材を求め、毎回の個展テーマにしてきた長岡美和子。今回は中原中也「山羊の歌」に焦点を当て、長岡のいう「墨象」作品25点に反映された展観。題材は全て一字。それを長岡流の筆法で「象」に創る。一字抽出の所以は長岡にしかわからない。見る者はそこにある象を眼前にし、あれこれ考えることもなくただ一心に向き合う。なかには長岡の意図(おそらく)とこちら側の見方が一致する場面もある。「鰯」がそうだ。かの「サーカス」に登場する「観客様はみな鰯」に拠るのだろう。ただこの字に注ぎ込んだ長岡の心根は何であろう。一杯ひっかけて過去を回想する中也。そこに出てきたサーカス小屋の光景。それは皆道化の世界。中也自身の人生さえも。そんなことを勝手に読み取りたくなる「鰯」の象だ。 長年長岡の墨象を見てきた筆者だが、今回展のそれは全作において随分明度が高まった感だ。白が輝いて見える。同時に線中の墨色変化も明瞭だ。「紅」はその典型。逆入の落筆部から鋒の捻れによって発墨変化が起き、鋒の多面使用によって線形変化も起きている。そこに生まれた広い空間。「密」では線中の白も一体となって明るい世界が創出されている。時世への思いとも見た。(篠原)
―中原中也「山羊の歌」より―
● 10月24日~30日 ● 船橋・滝不動スタジオM
近代文学に書の題材を求め、毎回の個展テーマにしてきた長岡美和子。今回は中原中也「山羊の歌」に焦点を当て、長岡のいう「墨象」作品25点に反映された展観。題材は全て一字。それを長岡流の筆法で「象」に創る。一字抽出の所以は長岡にしかわからない。見る者はそこにある象を眼前にし、あれこれ考えることもなくただ一心に向き合う。なかには長岡の意図(おそらく)とこちら側の見方が一致する場面もある。「鰯」がそうだ。かの「サーカス」に登場する「観客様はみな鰯」に拠るのだろう。ただこの字に注ぎ込んだ長岡の心根は何であろう。一杯ひっかけて過去を回想する中也。そこに出てきたサーカス小屋の光景。それは皆道化の世界。中也自身の人生さえも。そんなことを勝手に読み取りたくなる「鰯」の象だ。
長年長岡の墨象を見てきた筆者だが、今回展のそれは全作において随分明度が高まった感だ。白が輝いて見える。同時に線中の墨色変化も明瞭だ。「紅」はその典型。逆入の落筆部から鋒の捻れによって発墨変化が起き、鋒の多面使用によって線形変化も起きている。そこに生まれた広い空間。「密」では線中の白も一体となって明るい世界が創出されている。時世への思いとも見た。(篠原)