第29回東京水穂会書展
日比野 博鳳
「山ざくら…」
東京水穂会書展の第29回展。いずれにせよ、仕切り直してベストの方向へ向かうしか無い。賽は投げられたのだ。そんな内なる思いが伝わってくるような日比野博鳳氏の言葉が会場にあった。「改めてうちのメンバーどうですか!」との。流石に名門、その層の厚さが言わしめる、真意は会場作品の多彩さにあった。
今展に展示された作品から、日比野五鳳、光鳳の敬仰作品とともに注目作を挙げた。ふっと静まりのなかに広がることば(茂吉の歌―改作最終形)の独特な響きの真骨頂で魅せる池田桂鳳が居り、続く日比野博鳳会長はオーソドックスな山状展開の新緑に歌が舞う。あえて押さえた抑揚を評価したい。そしてゆるぎない線質の切れと優雅さの上林三玲「天地に(八一が救世観音を詠んだ歌)」の情景観ある作品が続く。白氏文書「南秦の雪」から影響うけた藤原俊成の歌を、扇面にしとやかに配した土岐妍子「うづみ火に」。福島有何は良寛の春霞の桜のうたを叙情感ある柔らかな筆致で表現した。突き入れたかな線の求心力活かした万殿紳水。山本三千代は書出しの大胆な布置が、大仏の存在感を顕在させた。吉見靖子は古今集より凡河内躬恒の春の歌2首を寸松庵色紙の風合いで書き分ける。機微の細かさが秀逸。川合広太郎の骨格ある捌き、下伊豆博子、水野裕子も自風の流れを構築しつつある。充実の展観であった。(松)