People 人間賛歌・陽はまた昇る
−「書を世界のアートに」
 見てすぐわかるものは共感を呼ぶ−


薄田東仙 刻字展


● 7月15日(水)〜22日(水)
● 銀座・和光本館6F 和光ホール

 

  誰が見ても、そこには複数の人が彫られている。両手を天に突き上げる者、大きく左右に開いて他者を迎え入れようとする者、中央部ではそれらが密集して複雑に絡まる。薄田東仙が近年こだわっている大きなテーマの具現、「PEOPLE」がそこにある。楠の原木から切り出した一枚板に、アクリルの青が鮮烈に光る。傍によると自然の木の肌に打たれた直曲の鑿の痕が音を立てるように飛び込んでくる。斜めからのぞき込むと、そこには影を伴った人々の生気に満ちた動きが見えてくる。「一鑿千魂」を刻した作もあった。「一つの鑿の痕でも千の魂が宿る」まさにその言葉に裏打ちされたような鋭利な線に心は躍らされたのである。
 刻字作家薄田東仙初の大個展が銀座・和光ホールで開催された。上掲作を含む「PEOPLE 2020」シリーズ大作3点をメインに、五輪をイメージした篆体造形「日々是好日」、華字篆体を5本束ねた「花束」シリーズ、書面の中に刻字を組み入れた新しい取り組みの連作、20代、30代、40代の旧作3点など45点が一堂になった。
 薄田東仙は1948年新潟市生まれ。駒沢大学在学中に青山杉雨に師事。しかし「当時は作家になろうなどとは全く思わず」にいたと言うから人生とはわからない。そして長揚石に師事して刻字に開眼。今展にも展示された29歳時の毎日展出品作は5字16行の右上がりの篆書体であった。当時としてはかなり挑戦的な風と受け止められただろう。この辺りに作家薄田東仙の原点が潜んでいるのではないか。時は2006年初頭、ある場所で当時創玄書道会理事長であった金子卓義から「書を世界のアートに」しようと声をかけられる。痛く共感したが、その数ケ月後に卓義氏が急逝。しかし、ここから薄田東仙の世界での活動が始まることになった。2008年イスラエルのヘブライ大学書道刻字講座講師に招聘されて以来、チェコのプラハ国立美術館、イタリアのMOA美術館、イスラエルのバルイラン大学、ポーランドのコペルニクス大学など、多くの他国の地での活動が顕著になる。その間、文化庁文化交流使にも指名されている。これら一連の活動の中から確信を得たことがある。「見てすぐわかるものは、より多くの人の共感を得ることができる」東巴文字の「人」に端を発した薄田東仙の「PEOPLE」が生まれた所以がここにある。「みんな違った生き方、だからバランスがとれている」とも。まさに人間賛歌である。そして世界中がコロナ禍に見舞われた今だからこそ、感情も移される。「陽はまた昇る」のだと。現在、毎日書道会理事、日本刻字協会会長などの要職にありながらも、薄田東仙の世界への挑戦はこれからも続く。能書きなぞ微塵も要しない「PEOPLE」は、更なる変化を遂げて発表されるに違いない。「書を世界のアートに」作家の魂を見た。(篠原)

 


 

 

 

PEOPLE 2020 B  〈275×1510〉