銀座アートホール全室を使用しての展観。1階には「象書」10点、「造形を柱とする試み」9点。2階は「心の風景」と題した大作中心の11点。他、小品約10点の構成。
大石千世さんは昭和18年静岡県生まれ。静岡大学在学中に山崎大抱に師事、その後手島右卿にも師事する。当時を「人生全てを懸けて新しい芸術を生みだそうとされている両師との出会いは、私の人生観を変えた」と述懐する。そして「生きるとはこういう事なのか」と早々に教職を辞して、「書に生きる」道を邁進してきた稀有の作家。しかも「書線による造形」作品を追ってきたのだから、並大抵の努力では今日まで辿り着かなかったことは容易に想像できる。今展出品作はどれ一つとして通り過ぎることができなかった。それ程までに各作に宿った魂の凄みのようなものを感じ取ることができたのである。ここにその一端を掲載したが、何れの作からも無駄のない造形と線の練度を窺う。大石さんは「象書表現を切り口として追求」してきたと言う。ここで一考したいのが「象書」という言葉の定義である。昨今の書壇では一字書、少字数書を簡単に象書と呼称したり、字義に添ったデフォルメをそう呼んだりする風潮があるようだが、甚だの誤解と捉えるべきだろう。同志柿下木冠氏は「古典で培った自在な技法の持ち主のみに可能な領域の仕事」と半ば警鐘を鳴らす。そして「千世氏は象書を書ける数少ない有資格者のひとり」とも言う。それを裏付ける作品が「鴎」であろう。感性と技法が一致した象書の典型と見た。「灘」と「礁」の対比においても底流にあるのは古典で鍛えた確かな用筆と線質だ。「分」に見る新たな試みにも今後注目したい。独立書人団参事/毎日書道会評議員/抱一会副理事長 (篠原)

窓 〈1210× 700〉

礁−追憶の遠州灘− 〈1450×1800〉
