老街の大路 曽遊を憶う
名研の古廛 天下に優る
往昔の我が書 猶壁に在り
主人 逾いよ健に破顔柔か
三百硯斎 豪且つ殷んに
主人笑語し客群を為す
歙州の美石 店頭に満つ
眉子 水波 金暈の紋
丙申初夏、騒人諸公と屯漢三百
研斎に過ぎり、二十年前の我書
猶店頭に在るを看る。騒客翰墨
の佳縁と為す。
黄山のふもと屯漢老街にある名店「三百硯齋」。そこは歙州硯の宝庫。石川芳雲が二十年前初めてこの地を訪ねた時、ここに立寄り店頭で小品を揮毫した。昨夏、何の前触れもなく再訪。店の主人は健在で、しっかり芳雲の顔を覚えていてくれた。店の壁は著名人の書で埋め尽くされているが、その中に当時芳雲が揮毫した書も額装されて鎮座している。懐旧の情に駆られたが、同行の詩人諸友も翰墨の佳縁として大いに喜んでくれたと言う。
掲載の大扇面作品に書かれた自詠詩書の書き下し及び大意を紹介した。周知の通り石川芳雲は書壇の数少ない漢詩創作者の一人。発表する書作品の素材は全て自詠である。詩の流れのように書も悠然と言葉の線で紡がれる。だから自然だ。見ていても飽きない。加えて墨色にも目が向く。磨墨による特有の緑の墨線がどの作にも見られる。まさに詩書墨一体の世界と言えるだろう。そんな石川芳雲の5回目の大個展がこのほど開催される。還暦時の第1回展を皮切りに緑壽、古稀、喜壽と賀壽の節目に開いてきた。そして今回は米壽記念。十年ぶりに芳雲詩書の世界が一堂になる。出品は全作自詠漢詩の40点。七絶十五首からなる行草八幅大作をはじめ、楷書、隷書、調和体、硬筆まで含む幅広い書体、書風の展観となる。石門頌や九成宮の倣書による漢詩作も注目されそうだ。開催至近。 日本書道學院長/全日本漢詩連盟理事招待作家/書道研究蛟龍会主宰 (篠原)
