第36回日展より
文部科学大臣賞
池田 桂鳳
万葉集第十三 歌三二二一「冬ごもり 春さ利来連八 阿し多尓は 白州遊おき ゆふ弊二八 可春三多那日求 かぜ能ふく こぬ連可し多尓 鶯那く毛」の長歌55文字を散らし2行を入れた10行にまとめた池田桂鳳氏の「ふゆごもり」が、第36回日展の文部科学大臣賞を受賞した。
受賞理由は「洗練された練度の高い線の中に、漢字の美とかなの美が融合し、文字の交響、粗密繁閑、墨の濃淡潤渇の空間の美しさが見事。 伝統をふまえながら、今日的感性豊かな日本の美意識が表出された秀作である。」とある。
さて、改めてこの作品に目を移そう。潤墨の筆鋒を吊上げ単字で「冬こもり」と入筆して澄んだ深さを出し、三行目下の「白」と四行目上の「州遊」、それと五行目下の「可春」の豊富な潤墨部で構築したトライアングルに視点を繋いでいる。また、七、十行にとった散らしが絶妙で、広めの行空間に誘われるように八、九行に視線が自然に誘導されていく。こうした構成のセンスの良さは、一朝一夕ではもちろん出ない。「21世紀の書は、とにかくタテをヨコの構造にしていかなければ発展性がない」と言う桂鳳氏だが、放ち書きで空間をたっぷりととった作品にずっと取り組んできた。ある意味今作はオーソドックスなスタイルに戻っての挑戦作である。そこに日頃の空間感が十二分に発揮されたと見るべきではないだろうか。冬ごもりから春を感じる季節への感慨を、見事に書の流れにのせた作品であると思う。
6歳で日比野五鳳師についた池田桂鳳氏、日展初入選は昭和33年、23歳と聞く。5年ほど前の京都高島屋での大個展には幅広い作域とセンスの斬新さに圧倒された記憶がある。新しい調和体のキーマンのひとりと思っている。 (松)