榎倉香邨の書
―炎と山河―
〔東京展〕 ●2月14日〜19日
● 東京銀座画廊・美術館7F
〔神戸展〕●3月29日〜4月2日
● 兵庫県立美術館ギャラリー棟3F
書藝の本質を追求し続けている榎倉香邨氏の6回目の大個展。2012年の日本橋高島屋での「牧水のあくがれ」に続くもので、大作を中心とする新作8点と、牧水の歌を書したこれまでの代表作14点、強い線の基調である藤原佐理の臨書をメインに、外小品57点が並んだ。
会場に入るや、先ず目に飛び込んできたのが「根本の春」である。牧水22歳の時に、熱愛する園田小枝子と新春を迎え滞在した千葉の安房の根本海岸を模したパネルの演出。打ち寄せる波を真っ赤な色紙に貼交ぜて、その熱情を直截に詠んだ「相聞歌」49首を中心に109首がはじける。これは、香邨氏が常に自らに課してきた「如何に感動を伝えるか(魅せるか)」の実践に他ならない。かな書の展覧会でこうした絵画的試みは初めてではないだろうか。
一方、会場中央に六曲一双12首の「富士」が静かに佇むように展示されている。人妻と知り小枝子との別離を決心し、酒におぼれた牧水の前に現れた歌人太田喜志子、良妻を得た牧水は沼津に居を構え、旅を続け酒を楽しみ歌を詠み続ける。故郷の山・川、両親の思いで、そして霊峰富士の景観を前にしての様々な歌が生まれるのである。「あくがれ」とは「青い鳥」と同義語だ。その思いに自らを重ね、熱く持ち続ける榎倉香邨93歳の世界である。(松)

根本の春(部分)2