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第35回選抜書道香瓔会七十人展より 会長 榎倉 香邨 春恒例書道香瓔会選抜展。ここしばらく「百十人展」の選抜が続いたが、今年は「七十人展」に絞り込み、密度の高い大作揃いの展観になった。そんな中、会場中央に一際目立つ深紅の作品。榎倉香邨会長の「牧水」だ。御歳九十二。全く年齢を感じさせない筆致がそこにある。若山牧水処女歌集「海の声」より黒髪に纏る歌三首。「君かりにその黒髪に火の油そそぎてもなほわれを捨てずや」「ああ接吻海そのままに日は行かず鳥翔びながら死せ果てよいま」「くちづけは永かりしかはあめつちにかへり来てまた黒髪を見る」牧水の燃えあがるような恋情をまるで我が身に投影するかのごとく緩急自在な書きぶりで見せる。なにせ真赤な長尺横ゆえに思わず溢れる空気に包みこまれるが、よくよくその書を、その行を追って行くと実に冷静な構成であることもわかる。例えば序盤、中盤の行の陰陽においても緻密な出し入れが的確に実行され、終盤のゆとりへとつなぐさま。この辺りが今展テーマ「静かな情熱」に直結し、香邨自身のいきざまとなる。(篠原)
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黒髪 君かりにその黒髪に火の油(他二首) |