第33回日本の書展より
榎 倉 香 邨
(財)全国書美術振興会主催の日本の書展も今年で第33回を迎えた。昭和62年より中断されていた関西展が第29回展より再興され、東京、愛知、大阪、福岡と現代書壇を代表する書家が会派を越えて一堂に会する文字どおりの書展となった。
今東京展を展観させていただいた中から榎倉香邨氏の作品をピックアップさせていただいた。と言うのも、昨年の関西展で挨拶にたたれた榎倉氏の毅然とした意気込みに同調したことを思いだしたからでもあるが、「会派を越えた他流試合の場と考え、慣れの作品を排除して真剣に取り組まねばならない」ということは極めてこの展覧会存続の本質をついている。どちらかといえば日展、読売系主流の流れにある本展が在野まで含めて大同団結できるか否かは、正に出品者の作品にかける意気込みに左右されるからである。
さて、作品に目を移そう。橙色の料紙にゆったりとした流れながら鋭く切れ込む書線、峻烈な厳しさを秘めながら全体感は優しく温かい。「ほの白き李の花に降る雨もみて心燃ゆ人を恋ふれば」と五行に書かれた与謝野晶子の歌である。詩情に響く書線の機微がそこにあった。現場での写真なので明瞭とは云えないがその雰囲気はお伝えできると思うが、どうだろう。私がこの作品で特に魅かれたのは、三行目の「て」と四行目の「人」がつくる揺らめく空間である。晶子の心の熱く揺れる思いが書き手である香邨氏の心を通して絶妙の空間を創りあげている。そう思うと前の二行の清々とした流れが雨にしずしずと濡れて白く輝く李の花の情景として見えてくるから不思議である。
榎倉香邨氏は若山牧水と与謝野晶子の歌をよく書かれる。ご自身の感性に歌の韻律がぴったりとくるからであろうが、作品創りには「この感動を書きたい」、「この情景が表現できれば」、といった初期動機がなければ作品にはならない。この作品ひとつをとっても香邨氏が初期動機をいかに大切にしているかがわかる。実は二年前の東京、神戸の大個展の折もこの歌が書かれている。思いは深い。 (松)