第37回 書泉会展より
―利玄調の音感と写実を書く―


主宰 下谷洋子


7月11日〜16日/東京銀座・鳩居堂画廊

 

 鳩居堂画廊の階段踊り場には瀟洒な展示スペースがある。2階店舗から3階画廊に歩を進めるとき、必ず目に留まる空間だ。そしてそこに入っている作品が、画廊フロアの展示内容のバロメーターになっているともいえよう。今回の書泉会展では上掲の下谷洋子主宰の作品に出合った。これが随分印象に残ったので、この欄に別掲した。展評は7面を参照されたい。
 「昼山の松吹く風の音澄めりあかるき道を一人しあゆむ」木下利玄の歌である。平易な語を用い、写実にも長けた利玄調の名歌。それを下谷さんは巧みな技術で仮名の線に乗せ、複雑な動きをともないながらも行は立ち、すっきりと簡潔な書面に仕上げている。巧妙の技と爽快の行立て、二律背反の大調和がこの小紙面に満たされているのである。だから見入る。書は作品の大きさにかかわらず、内容の充実度が増せば増すほど見る者の心に大きく映ることの証左を確認した作ともいえる。
 一方、料紙柄にも注目したい。右半分に青く淡く暈された低山のような柄模様。その上に「松吹く風の音」が乗せられたシーン。そこにも利玄調の音感が反映する。 (篠原)

 

昼山の松吹く風の音澄めり…
(木下利玄)