下谷洋子 書展

― 上州の韻ひびき こよなく・かな ―


●7月15日〜25日
●和光 本館6F 和光ホール

 

 関東かな書壇を代表する一人、下谷洋子さんの10年ぶりの大個展が開催された。銀座四丁目のウインドーに掲げられた2点は真白の壁を背に凛と引き締まった「下谷かな」を引き立たせ、今展テーマの「上州の韻き」に込めた作家の決心を彷彿とさせていた。それほどセンスの光った一等地の光景から上階のメインホールへと向かう。そこにはコロナ禍にもかかわらず既に大勢の展観者が静かに作品と対峙していた。当代注目のかな作家の個展とあって、その人気の高さを窺わせる。広いホールとはいえこれだけの人が入ると、ともするとそこは雑談の場になりがちだが、それは杞憂でしかなかった。時世への配慮はもちろんだが、それ以上に作品から醸し出されているオーラが観者を引きつけているのである。そのオーラとは何か。それは間違いなく下谷洋子の芯のある書風に尽きるのではないか。風強く荒々しい風土の上州に生まれ、今もそこを拠点に活動する下谷にとって、上州の地は他に迎合しない作家魂を自然と育ませ、独自の芸域を築かせてくれた。「下谷かな」に漲る緊迫感の源そのものなのである。観者の心がその紙面に、その線に釘付けになる所以そのものだ。
 出品は49点。全作高い技術と修練で詩情を落とし込んだ静寂の紙面を見せている。万葉集から選文した「上野国の歌」の巻子作はその典型だろう。万葉仮名で書きだし、途中料紙の色味を変えて利根川の歌を乗せ、後半は行頭を大きく揺らしながら繊細なリズムの一貫が刻まれている。一方「明石方」においては漢字を主に大らかな書きぶりを示すも、巧みな用筆で線条は刻々と変化する。また「空は今」に見る読ませる作にも淡々と情感を託した跡がある。「白菊の花」では字の懐を見せて、悠々の小世界を楽しませてくれる。
 今月上旬、下谷さん主宰の「書泉会展」が開催された。そこに出品された下谷さんの作は既に新たな展開を見せていた。まるで当然事のように。この辺りにも下谷洋子の真骨頂を窺うのである。
 毎日書道会理事/書道芸術院常務理事/群馬県書道協会副会長(篠原)

白菊の花(「古今和歌集」凡河内躬恒)〈550×415〉

祈り(一) (稲畑汀子)〈920×260×2〉

 

上野国の歌(「万葉集」)〈255×2940・巻子〉

明石方(土屋文明)〈790×340×7〉

夢の力(玉城 徹) 〈700×1770〉

空は今(アルベエル・サマン「月下の一群」
夕暮より 堀口大學訳)  〈630×680〉

多胡の入野(斎藤茂吉)〈400×500〉

相ともに(下谷弘光)〈460×370〉