―喜壽記念書作展より―
凜とした楷書の耀き


謙慎書道会理事長
日本藝術院賞受賞展

樽本 樹邨

●9月10 日〜16日
● 日本橋三越本館6F 美術特選画廊

 

 喜壽記念、そして書業五十年の節目として開催された樽本樹邨書作展。いずれも蘇軾詩を書いた楷書六曲、行書六曲の大作を中心に、各体をくまなく能くした重厚な作品が並び、連日大勢の展観者で会場は賑わった。
 樽本樹邨の書の基盤には六朝北魏の楷書や隷書があることは広く知られている。更に深く樽本の線を読み取ると、「磨崖に刻された文字を眼前にした時は、とてつもない書の歴史と深遠な力を感じた」と言うように、大陸の壮大な自然と対峙した人間の営みの歴史を、刻された線に感じ取ったに違いない。そこから「ひたすらその世界に没頭」したと言う。なるほど樽本樹邨の書が重厚で、墨の芯が紙背にまで行き着くかのように奥深い線を呈している根本要因を理解するのである。尚つき詰めると、その構成において実に自然な配字であることに気付かされる。草稿に忠実に置いたのではなく、むしろ落筆時から何も考えずに筆を運びぬいた結果の全体像があるように思われる。これも磨崖の書に触発されたことに起因するのだろう。掲載は前述した蘇軾詩楷書六曲作。重厚である。しかし鈍重ではない。それはやはり自然な配字構成がもたらせている賜ではなかろうか。言わば卒意の楷書的な要素さえ含まれていると考えられる。それと実作を至近で見た時の線の印象は鮮烈を極め、紙の白を斬るかのように輝いていることも特筆できよう。
 今展の出品作の題材は蘇東坡が軸になっている。樽本の東坡観に「目の前の美しい風景や感動に出会うとためらうことなく即座に詩にした」という下りがあるが、この「ためらうことなく」の部分が樽本樹邨の書に昇華されているように思われてならない。行書、行草作において。そして前記楷書作においてもだ。その辺りが書家樽本樹邨の強みであり、存在感にもつながっている。
 平成20年、日展文部科学大臣賞受賞。同22年、日本藝術院賞受賞。現在、日展会員、謙慎書道会理事長、読売書法会常任総務、全日本書道連盟理事長、現代書道二十人展メンバー。(篠原)

 

 

蘇軾詩
  上巳日與二三子攜 酒出游隨所見輒作
  數句明日集之爲詩 故詞無倫次
153×60�B 六曲屏風