―京の雅をかな書の中に―
日比野 光鳳
日展理事
水穂会会長
1999年6月7日に98年度の日本芸術院賞に輝いた日比野光鳳氏、受賞作「花」は第30回日展出品作品で、古今和歌集から紀貫之の歌三首を流れの優美さを重視した構成でしっとりと書きあげたもので、京のかなを彷彿とさせるものであった。
それから5年が過ぎようとしているが、日展理事、常務理事に就任し、01年からは現代書道二十人展のメンバーに選抜され、日本を代表するかな作家への確かな足がかりを確立した。
先年、急に体調を崩され、命の大切さを改めて心したと言われているが、今を最大限に生きようとする思いは「書」へと導かれ、その真摯な姿勢がさらに書線に機微の深さを加えているように感じられるのは衆目の一致するところだろう。
氏は大病の経験と同時に、父五鳳翁の呪縛から抜け得たのではないだろうか。昨年の日展作品では、従来にない線質変化による動的転換を加味した新しい構成で、斎藤茂吉の歌の情感をしっとりと紡ぎだしている。
さて、上掲の作品は今年の現代書道二十人展に出品された中の一点である。
「千ゝの春よろづ農秋二那可ら遍弖 月と花と越支三所身るべ支」と源実朝(金槐和歌集)の歌を直径28 cmの月に見立てた真円の料紙に書き下した作品だが、たなびく雲が月にかかり月の光に周りがにぶく輝く様を金箔の空間で受けとめ、それを粋な飾り窓から見ているようなシチュエーションに表装されており、月に浮かぶように配されたたおやかな書線の響きと歌の情感が溶け合うように工夫されている。決して書のみが吐出せず、表装一体となって作品を完成させている。恐らく光鳳氏は当初からそうしたイメージを抱いてこの作品に取り組んだに相違あるまい。「京の雅を感じられるかな書を目指したい」と言うひとつの具現がこの作品といえるが、京都という場とかな書、そして歌、この三要素を必須とした作品創りのイメージを静かに温めている光鳳氏のすがたが作品から透けて見えてくるようでもある。自然体ながらも己の世界を追求する深奥の域へとまたひとつ歩みを進めている。
