第19 回東京水穂会書展より


会長

日比野 光鳳

「またや見む…」

 

 「また見ることがあろうか。交野の御狩り場の桜狩りの、雪のように花が散る、春のあけぼののこの美しいひとときを。」(学研全訳古語辞典)新古今集春下に収められた藤原俊成晩年の名歌が、当代きっての仮名作家日比野光鳳の手によって現代空間に静かに蘇る。金銀の箔が適度に散らばるさくら色の料紙に、やや濃いめの墨の線。ゆとりの行間を携えた大きな空間の前半に対し、後半三行は「花の雪散る」風情と動感に合わせるかのように緩やかな揺らぎを演出する。更には背景の額マットに暈しの紋様を用い、さながら「春のあけぼの」を呈している。
 第19回東京水穂会書展に出品された日比野光鳳氏の作品である。日比野氏の仮名に常にあるもの、それは「京の雅」と言うしかない。大字にしろ、今回のような中字にしてもそこに流れる空気は変わらない。遠い昔の平安の、漂う麗しの空気。京に在し、仮名文化の本質を追ってきたからこその自然の成り行きかもしれない。まさに円熟の境地に至る。(篠原)
 文化功労者・日本藝術院会員・日展顧問・水穂会会長