第49回水穂書展より


日本芸術院会員

水穂会会長

日比野 光鳳

 

 半世紀にあと一年と迫った京都かなの名門、水穂会の第49回展より日比野光鳳会長の六曲屏風作品を紹介させて頂く。光鳳氏は夏の水穂会展本展では、常に六曲屏風での出品で、日展には横額作品、二十人展には四曲屏風と独自の発表スタイルを貫いている。一昨年、昨年と水穂会展では古今和歌集より一首を大字かなで悠揚とまとめあげてきているが、今年も古今和歌集(秋歌上、169)より藤原敏行の代表歌「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」に材をとり、従来より大胆な用筆で書き上げた。
 実は、この歌は第40回記念の水穂会展に同様に大字かな作品として六曲屏風に書かれている。連綿を押さえ、単字の響きを入れ求心力をもたせながらも、かなとしての柔和な流れを保ち、やや薄墨の墨色とあいまって品格ある作品に仕上がっていた。それは、これまでの山形の構成スタイルで、継墨時の強い潤墨部をつなぐ視点構成で交響楽的展開を指向したものから、自分自身の空間性を探る作品に着手した、そんな雰囲気があった。
そうした思いをもとに今作を見ると、一番の違いは文字の沈着度の差である。一見前作より大胆でありながらも、文字はしっくりと紙に沈んで風格を持ってきている。もちろん墨色にも繊細な気遣いがうかがわれる。各行の文字数は同じ配置であるも全体観は少し大振り、変体かな5文字を変えることで悠揚たる広がりと深さを持たせた。一番のキーポイントは二行目一文字目。前作は「み」に「見」を素直にあてていたが、今回は「美」を用いることで大きく全体の様相が変わった。その派生として二行目の「さ」を変体かなの「佐」に、三行目最終文字「裳」を「母」に、四行目二文字目の「能」を「農」に、そして六行目最終文字の「流」を強いタッチの「類」として先頭の強い「秋」と対角線上に明確に視点を結んでいる。それで強くなりすぎないのは、各行の強弱を巧く絡めているからである。五鳳の書を継承しつつ、それを自風に展開した世界が見えてきている。(松原)

 

 

 

 

 


秋来ぬと…(古今和歌集)六曲屏風