第48回水穂書展より

日本芸術院会員

水穂会会長 

日比野 光鳳

 

 第48回水穂書展より日比野光鳳会長の六曲屏風作品を紹介させて頂く。この六曲屏風は、古今和歌集巻3の夏歌、清原深養父(きよはらのふかやぶ)の短歌で(小倉百人一首にも撰歌)、「夏の夜は宵のうちかと思うと、もう夜明けに近い。あの月は雲のどのあたりに宿を借りるのであろう」という歌意で、ちょうど6月の夏至あたりに歌ったのではあるまいか。水穂書展開催時期にぴったりと合致する書題である。実はこの歌には「月のおもしろかりける夜、暁がたによめる」との詞書がある。「暁がた」とは夜明け前のまだ暗い時分で、歌の中の「宵」は夜に入ってまだ間もない頃である。作者は遅い夕餉から友と話がはずんだのであろうか、時間はしらずに過ぎ去って暁がたの月に思いを馳せた。いつの時代も同じで、現代でも友達で夏至のころに駄弁り、酒を飲んで家に帰り本などを読んでいると、いつの間にか夜がしらじらとしてくることがよくある。
 超大字の六行だが、親しみある歌だからこそ成せることで、正に歌を口ずさみながら筆を運んでいる光鳳氏が見えてくる。思い切ったくずしの漢字と連綿を抑えたかなが、潤渇を効かせたリズムに乗って涼やかに観者の視線を導く。
 これまでも、光鳳氏は日展、読売には大、中字の額作品、二十人展には四曲の金屏風をはじめとする大字から軸装の小字、細字、東京の水穂会選抜展での小品、そして京都本展での六曲屏風発表と各展覧会に応じて年間のリズムで作品作りを進めてきている。それは日展大臣賞を受賞した頃(平成9年)より考えられていたのだろう、平成11年の日本芸術院賞受賞後は、父五鳳調からの離脱を胸に秘め、年々に充実した内容の作品を発表してきた。その究極の目標は「京の雅」の再現にあり、王朝文化のかな文字を基底に持ちながら、現代の風をいかに取り組むかという信念が、とりもなおさず自分自身の書域の深化を促してきたといっても過言でないだろう。2008年12月15日、日本芸術院会員に就任され、父五鳳翁に続く父子の就任は書道界初の快挙となった。深化増す光鳳氏の活躍を期待したい。    (松)


夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを
雲のいづこに月やどるらむ   
         (古今和歌集)