第15回東京水穂会書展

 日本芸術院会員
水 穂 会 会 長

日比野 光鳳

 平成20年12月15日、日本芸術院新会員に就任された日比野光鳳氏の主宰する東京水穂会書展より出品作2点を紹介させていただいた。
 1点は朱色の料紙に4行に構成した作品で、古今和歌集の春部にある紀貫之の歌である。(長谷寺の)梅の花の匂いは今も昔も変わらないが、昔から馴染みの家の主人の心もそうであろうか不知である。という意であるが、書にかける気持ちをずっと変わらずに持続したいという光鳳氏の思いがこの歌を選んだと言えるのではあるまいか。寸松庵色紙の様式に準じながら、あえて添えるような散らしを用いず、潤、渇、渇、潤の4行の響きで情感空間を構築している。もう1点は万葉集夏雑歌1942「時鳥」、これも寸松庵様式である。最終を「免」を散らして5行構成とした抜群のバランス感が冴えた作品といえるが、小字の単体の呼応感を保ちながら、2行目の「うの花の」、と4行目の連綿の響きとが調和しており、優雅で品格あるたたずまいを醸し出している。この2点の作品が持つ雰囲気は正に「京の雅」であろう。昨年の京都市美術館での水穂書展に出品された「源氏物語〈桐壷〉」で魅せた書線の機微、余白の深い響きが十二分に受け継がれ、独自の世界が構築されつつある。
 光鳳氏が、昭和かなの書聖と謳われた父五鳳翁の重圧から開放されたのは、恐らく日展内閣総理大臣賞受賞以降のこと。そこを起点として年毎に作品の世界が広がり、芸術院賞受賞へと飛躍する。そして前回にも記したが、生死に関わる大病を経験するのである。言い古された言葉だが、病を克服し、生かされている自分に対峙したとき何かが変わったのであろう。名を残した作家にはそうした啓示にも似た転機が存在する。
 書道界で初めて親子二代の日本芸術院会員に就任という偉業を成しえた日比野光鳳氏、今後の書道界をリードする重責を同時に担うこととなる。健康に留意されて自らの世界の深奥を極めていただきたい。
 来る3月24日、京都駅のホテルグランヴィア京都に於て芸術院会員就任の祝賀会が開催される。 (松)

 



*人はいざ こころも知らずふるさとは      
花ぞむかしの香ににほひける  〈古今和歌集〉貫之

 

* 時鳥なくこえきくやうの花のさきちるおかに
くずひくおとめ    〈万葉集〉 読み人しらず