日本芸術院会員
古谷 蒼韻

 筆者が古谷蒼韻氏の「書」に初めて接したのは昭和61年の第4回長興会浪華書展である。「軒冕を泥塗にす」と木簡調で書かれた四字作品で、当時はその意味さえも知らずにいたが、この時期は古谷氏が日本芸術院賞を受賞した2年後のことで、選文に深い意味が込められていたことを改めて今思う。「書」の見方など誰にも習ったこともなく、絵画と同じ感覚で動線の魅力、構図、バランス感、それらを総合した見る側からの視点移動の心地よさで概ね書作品を判断していたわけだが、20数年経ち書に対する多少の知識は増えたものの根本的な鑑賞ポイントは変わっていない。その後、古谷蒼韻という名前を強烈に意識したのは第7回長興会浪華書展で、島崎藤村をテーマに制作された古谷氏の「椰子の実」であった。何故か今もその作品が思いだされる。口ずさむように横に視線が静かに流れていく、恐らく私の気持ちの波長とぴったりと合ったからだろう。それ以来私は古谷氏の横作品に魅かれている。
 京都師範で中野越南氏に出会い、その教えの中の思想・精神を今も貫かれている。後に長興会で村上三島氏に師事し、書の正統派の方向を学んでいるが、古谷氏自身は京都師範卒業後大感動を覚えたという黄檗の墨跡、そこから寂巖、そして良寛へと書線研究の旅が続いていく。日展には木簡調の響きある対峙作品、長興展には調和体と時折和様風の横額作品、又うねりある行草作品、現代書道二十人展にはそれらを総合した試行作品が出品されてきた。古谷氏は「書は線芸術」と言い切る。15面のアートインタビューにも詳しく記載させて頂いているが、そうした鍛練を黙々と続けてきたといえよう。そして院賞受賞後実に22年、昨年末日本芸術院会員に就任された。第51回現代書道二十人展より注目の2点を紹介させて頂いた。益々の健筆を期待したいと思う。     (松)

第51回現代書道二十人展より

匪 懈
詩経大雅烝民伝 夙夜匪懈以事一人  26×59