| 改組 新 第5回日展 −「吉野山」に見る奥行−
授賞理由によると「仮名特有の文字の連綿が自然と働きながら線の潤渇をうまく使い全体に抑揚が見られ、奥行を感じさせる。仮名の散らし書きが力むことなく構成されており、完成度が高い作品となっている。渇筆に弱いところなく、全体をひきしめている」とある。なるほどよく言い得た作品評である。この中で、筆者が特に注目したのは「奥行」だ。もちろんそれは線の潤渇や全体構成に起因するのだが、敢えて「絵画的奥行」ととらえて考えてみたい。作題は「吉野山」である。西行山家集から四首が書かれている。前半二首は作品下の釈文を参照されたい。後半は「よしの山人に心をつけがほに花まつ峰にかゝるしら雲」「白河のこずゑを見てぞなぐさむるよしのの山にかよふこゝろを」である。桜をこよなく愛した西行にとっての吉野山は「あまりかねてもたづねきにける」ところ。まだ花が咲きそろわない山の情景を西行の「こゝろ」になって、大字かな表現を使って描きたかったのだろう。緩やかな山型構成に天を大きく空け、地は詰められる。三首までに一つの文字群を作り、四首目の完全な場面転換につなげた。潤った線は深く、渇いたそれは明るくも儚い余情を醸しだしている。そこには歌の意とかな表現による吉野山の景が見えてくるではないか。それを「奥行」と呼びたい。
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吉野山(会・審) |