第43回現創会書展より

日展理事

杭迫 柏樹

平成19年度 日本芸術院賞受賞作品(第39回日展作)
『茶を送る』 送茶将軍扣門急 驚覺 深夢一窓

今年3月、平成19年度の日本芸術院賞を受賞した杭迫柏樹氏の作品「茶を送る」は、元の時代の詩人薩都刺(さっとら)の七言絶句の前半部を書したもので、「半夜の竹炉蟹眼を翻し 只だ疑う風雨に湘江を下るかと」と続く。茶人同士の満ち足りた心の交わりを描いた詩に、裏千家に学び自らも茶人である杭迫氏が昨年の第39回日展出品の1ヶ月程前に偶然目にして作品に仕上げたいと思ったという。「特に『秋』の文字の語源に詩の味わいと自らの人生の実りを凝縮したかった」と。正に一期一会の詩との出会いといえる。感動を文字として定着させる、何をどのように書くかが如何に大切かということを改めて思い起こさせる言葉であろう。
 杭迫柏樹氏は昭和9年、静岡県森町の生まれ。幼少の頃より書に親しみ、高校で静岡県知事賞を受賞。科学者を夢見ていたというが、諸事情で断念し、書の世界を目指すべく京都学芸大学の美術家書道を専攻、卒業後は高校教師を経て村上三島氏に師事した。昭和37年日展初入選を果たし、以降順調に特選、会員賞を受賞、平成17年に内閣総理大臣賞を受け、今年芸術院賞の栄に輝いた。
 さて、昨年から研究展から公開書展となった現創会書展が7月初旬に京都市美術館で開催されたが、氏は始皇帝暗殺の命(恩師田光の推挙)を受け入れた荊軻が、易水の辺別れの際に歌った「風蕭々として易水寒し」を三行に凛とした筆致で書き下した。深い思いを胸に暗殺者として旅立つ荊軻の悲壮感に感銘しての書作、宋代の趣ある結体がよくマッチしていて悠然とした重層感を感じる。今後、益々の進化が期待出来る作家である。     (松)