―乾坤一擲の大個展―
書 杭迫柏樹 の世界展


●9月7日〜11日
● 京都文化博物館
   (5・6F全フロアー)

 日本藝術院賞受賞者で、日展会員の杭迫柏樹氏が今年9月、大規模な個展を京都で開催する。京都文化博物館の5階・6階の全フロアー約2000�Fを使用する会場規模は、個展としては前例がないこれ迄最大のもので、6階の第1会場は、「伝統という大鉱脈に立っての自己表現(大作中心)」を趣意として1、メイン:超大作を含む新作。2、回顧作品:制作年代順。3、京都フォーラム・コレクション:近作を中心。4、障壁の書(襖?大壁紙ほか)に挑戦。5、私の書斎(古典臨書を中心に学書の遍歴・紹介映像など)。また、5階の第2会場は、「人の世に活かす、人生をめぐる書の多様なかたち」をテーマに、6項目に及ぶ盛り沢山の企画・構成(16面に記載)がなされている。
 さて、今展の出品作品、杭迫氏の書歴などは16面に譲るとして、日展内閣総理大臣賞受賞作の「一葉」を改めて巻頭紹介し、氏の書芸術観を探ってみたい。この詩の全文は、�u風定花猶落 鳥鳴山更幽 不知何処寺 風送鐘声来 人間路到三峰尽 天下秋随一葉来 青山自青山 白雲自白雲」で、宋代の王安石の集句詩と云われているが、元の詩は梁の詩人王籍の「入若耶溪」で、「蝉噪林逾静 鳥鳴山更幽」の対句の後句を採った。芭蕉は前句を俳句として「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだ。「人間路到三峰尽 天下秋随一葉来」は宋代呉越の詩人・銭昭度の詩句。王安石は執政として北宋の第6代皇帝に仕え、新法を発して国家再建に尽力したが、権益を守ろうとする保守派を最終的に打ち崩せず野に下った。恐らくその思いを、銭昭度の詩句に託したのではあるまいか。あらゆる努力を尽したが人間(じんかん)の路は尽きた。宋の秋(没落)は一葉(私)の下野に伴って来るであろう、と。しかし、青山も雲も昔と変わりはしない。
 作品に眼を移そう。悠揚とした単字行草がじっくり切れ込んでリズムを創る。ポイントは秋の古字。そして一と来の滑筆が白の余白に優しく響いて書空間をつつみ込む。杭迫氏が抱き続けている達観の境地が生んだ作品と言えよう。(松原)

 

 

一葉

平成17年(二〇〇五)第37回日展内閣総理大臣賞 106×182cm