第32回読売書法展より
書作の深奥に堅持する「清心」
日本藝術院賞受賞
読売書法展顧問
杭迫 柏樹
2005年の第37回日展で内閣総理大臣賞を受賞した「一葉:人間路到三峰盡 天下秋随一葉來(禅語)」で杭迫柏樹氏の真骨頂を見たが、この語は「青山自青山 白雲自白雲」と続く。明らかに達観の境地、その「達観」の文言に潜む深遠なる清心を書として定着させる。そうした作書の理念の一端を感受できた作品であった。
そして、2年後の日展出品作「送茶」が翌年の日本藝術院賞を受賞する。この作品は、元の時代の詩人薩さっ都と刺らの七言絶句の前半部を書したもので、裏千家に学び自らも茶人である杭迫氏が、茶人同士の満ち足りた心の交わりを描いた詩に共感し、作品に仕上げたものであった。藝術院賞の候補にあがった年に書かれた現代書道二十人展の「乾坤一擲」はその時の正直な気持ちを吐露したものであろう。清心と栄達の狭間でゆれる氏の心が垣間見れる。
以降、「桃李不言」「霊機」「應機」「飄逸」など、書線の明度に渇筆を絡ませた鋭角的運筆が煌めきを一層際立たせる作品群を発表してきているが、今回の作品は昨年の新日展の作品「飄逸」の延長上にある大字と小字出典の対比作。「曠逹」とは、心が広く物事にこだわらない意である。氏の懸案のテーマと読売展の解説に記されていたが、出典は晋書・張翰傳である。「使我有身後名 不如即時一盃酒」に続けて、時人貴其曠逹とある。気まま暮らしの張翰に、ある人が「死後の名声を思ったことはないのかね」と問うた返答が「死後に名声が残るよりは、たった今一盃の酒の方がいい」であった。その生き様に当時の人々は共感し、尊敬したという。今では「即時一盃」の四字熟語になっているが、後の大きな利益や喜びより、たとえ小さくても、今手に入る小さな利益や喜びのほうがよいということを表している。同様、徒然草にも、死後財産を残しても後人の荷厄介。名誉が残っても無益という下りがある。白氏文集・勧酒にも同意の文が残っている。
今年、杭迫柏樹の後援会「東游会」が高村正彦自民党副総裁を最高顧問として発足、6月28日に会報創刊がなされている。寡黙で誠実な杭迫氏の周りに自然と人が集まる。来年、8月21日〜28日に目黒雅叙園で大々的な氏の書展が開催される予定である。(松)
