2005 日本書芸院展 役員展より

 

高木 聖鶴

 

 2005年日本書芸院展役員展より、高木聖鶴氏の2m超スクエアー大作を紹介させて頂く。
 万葉集3248相聞『磯城嶋の 日本の國に 人多に 満ちてあれども 藤波の 思ひ纏はり 若草の 思ひつきにし 君が目に 戀ひや明さむ 長きこの夜を』の長歌を八行に書き下した作品だが、会場に入り、漢字作品と見まごうばかりの骨格ある大胆な展開に目線が釘付けとなったのが本作であった。普通、敷島と書くが、『磯城嶋』は日本古典文学全集に例がある。地名でも奈良県に磯城郡(しきぐん)として残っており、多分にこの字を使いたいという作者の意図が感じられるが、かなのおもしろさの一端を覗かせてくれる。
 さて、作品に目を戻そう。意表をつく『しきしま』の柔らかな書きだしから、二行目の『みちて』、三行目の『ふじな』、四行目の『まつわり』、五行目の『おもいつきにし』に鋭角的に視点を誘導し、次行の『戀ひや』で安定をはかり、ふっとした七行目の空間を経由して落款部で締めている。構成的には二、五、六行の潤墨部を結ぶ三角形と五、六行の一辺を共有して落款部と結ぶ二つの三角形から成り立っており、六〜八行の渇筆が効いて立体の三角錐的空間を創りだしている。漢字作品を思わせるような大胆な用筆が、生き生きとして躍動し、これまでにない新たな境地の作品を生みだしている。
 聖鶴氏は常に「平安古筆」のかな美の原点に戻るのだと言う。時間があれば細字、小字で「古今和歌集」を巻子仕立で書き残しているのもその証であり、古筆の表情の豊かさを再認識して現代の空間にどう活かすかを真剣に考え一歩でも前に進もうとしている。普通これだけ実績ある作家の場合、充分これまでの蓄積の範疇で作品作りが可能だが、聖鶴氏は停滞を良しとしない。だから、古典の蒐集で自身の審美眼を磨いており、それはかなに限らず漢字作品も多く含まれる。こうした骨格ある大胆な線が書ける所以であろう。今展の特別展示「良寛」に氏の所蔵する名品が含まれていたことを付記しておきたい。       (松)

 

         骨格ある大胆な展開      

          「磯城島の…(万葉集)」   216×212