第41回日展より
日本芸術院会員就任
福田 千惠
「研磨」
「研磨」は刀剣の研ぎ師を描いた作品で、モデルは24代本阿彌光洲氏である。氏は現代における研ぎ技術の第一人者であるばかりでなく、刀剣の造形やその美しさを文化として次世代に伝える人でもある。一筋の技を歩み続ける姿に感動し共鳴した画家のモティベイションの高まりが、まさに研ぎの行為の只中にある研ぎ師の緊張感として伝わってくる。
紺の作業衣の袖をたくしあげ、右手で刀剣を握り左手を当てがい、両腕に適度な力をこめて研ぐ緊張の一瞬が、黒足袋の足先にも、その顔にもみてとれる。それは塵一つ落ちてもその音が聴こえるほどの静謐感に満ちている。主役を徹底して印象づけるために画面仕立ては出来るだけ簡潔にし、そのことが作業場の整理された清潔な空間をも暗示する。構成的には水を張ったまるい二つの桶の曲線と柱や棚の直線が画面の変化と統一をつくっている。
福田さんは肖像画をもっぱらとしている。アトランダムにあげるなら、演奏を終了してピアノの傍らに直立するピアニスト、浄瑠璃新内を弟子に指導する江戸気質の粋な座姿、あるいは何代も続く名家の当主など、一筋に人生を歩いてきた人々をモティフにしている。それは単に対象とする人物の姿形ばかりでなく、年輪を閲した人生の陰翳を抱えこんで、なお今を充実して生きていく人間性に惹かれるからであることは言うまでもない。
肖像画はある人の姿を描いたものだが、そうした作品は多く描かれているが、福田さんはその内面までとらえ、ひとつの人格をもった人間像として描写する数少ない画家の一人、というより代表的存在であろう。
言うまでもなく、相手は生活し仕事のある人たちである。取材日程の調整一つでも大変であろう。イメージを固めるまでの取材はきわめて粘り強く、かつ綿密であろうことは作品からもうかがわれる。
福田さんはこのたび、,09年度日本芸術院新会員になられた。授賞理由は「人物の肖像を得意とし、モデルをとりまく環境まで綿密に写生し、深い美の世界に到達している」。1946年東京生まれ。武蔵野美大卒。日展理事。 (中野 中)
