第54回全展より
ー簡素化の中に味わい込めるー
代表
大林せつ子
茅ヶ崎に住まう画家は、鎌倉から湘南方面をよく散策するのだろう。この散策のスケッチから生まれた作品がよく本展に出品される。この作品もそうした中から生まれた一作だ。
3月弥生の稲村ヶ崎海岸から眺め見る夕日はこの近辺では一番美しいと聞き、鎌倉散策の帰途、絵描き仲間に誘われて足を伸ばしてスケッチをしたのは、もう何年も前のことらしい。
長い間心の中で思い返しては反芻してようやく本展の作品となった。十分に咀しゃくされたモティフは、優しく穏やかでそれでいて芯があり、観る者の心に沁み入ってくる。
ゆったりと白波を立てる海原の向こうの、夕照に滲み入りそうにおぼろな二つの島影の向うに沈んでゆく太陽を描いた。実に素純な景ながら、存分に画家の美意識、美感―おそらく大林せつ子という人間が重ねてきた人生の中で醸造し、培ってきた世界なのだ。眼を通して見たものが、人生というフィルターを通して生まれ出て来た世界が持つ、深々とした味わいがある。
絵画制作の規矩を踏まえながら乗りこえてこその自分の美が存在する。(中)
