祝 百壽

第69回春の院展より

文化功労者
日本藝術院会員

郷倉 和子

 

 日本美術院の重鎮、文化功労者・日本藝術院会員の郷倉和子さんが今年百壽を迎えられた。
 昨年9月21日から11月24日まで、両親の故郷・富山の富山県立近代美術館で、白寿を記念する大回顧展を開催し、弊紙にも事前紹介をさせていただいた。和子さんは、オープニング出席を楽しみにしておられたが、熱暑の夏で疲れの中にあって、高齢と遠方ということで出席を断念されたようで、ビデオレターが会場で流された。会期中約8000名の入場者があり、和子さんは思い出の地での盛会を喜ばれたとお聞きした。
 さて、百壽を現役で迎えられる画家は希有で、長い歴史を持つ院展においても奥村土牛翁、小倉遊亀さん、片岡球子さん、そして郷倉和子さんの4名しかいない。百歳の心境は、我々若輩者には想像の域を出ないが、長年の研鑽で到達した自らの内なる画の世界に、正に遊ぶかのような雰囲気を感じさせてくれる。
 和子さんも昨年の院展に以前から描きたかった「空の様子」に全面的に取り組んだ作品「空へ」を発表して、更に今回の作品「朧々」は『空を眺めているといろいろ思いを馳せることがしばしばあります。そんな空の景色に自分の心の窓から観た梅と富士山を配しました。』と心象的な画境の世界を滲ませた。昨年は、初秋の鱗雲を丹念な写生から本画におこし、下面わずかにのぞかせた実景の屋根と白梅の上いちめんに再構築したものだったが、今回は、春霞に煙る富士の上空のおぼろ雲をたらし込み技法を用いて、自分の世界の中に柔らかく、深く表現している。そしておぼろ雲の一片一片と、下面に配した心象の白梅と富士が何かを語りあっているような、そんな雰囲気を醸し出している。
 そういえば、たびたび描かれる富士山も近年まで描かれてはいなかった。おそらく卒寿の頃以降ではなかろうか。霊峰富士への思いと空の様の無限性は、言い替えれば画家の精神世界の高みへの憧れであり、夢であるのかもしれない。梅にみる生命の美しさと尊さと共に。弊紙からも百壽を心よりお祝いしたい。(松)

 

「朧々」