第66回日本南画院展より

―心の平穏を願う 気韻生動の世界―

理事長

堀江 春美

 

 第66回日本南画院展より堀江春美理事長の作品「命 輝け」を紹介させていただいた。昨年は幹に大きな穴を穿つ古代樹の根元から数本の新生の枝が力強く伸びゆく『孫生え』を日本南画院「再生」の写意として表現、南画の本質を守り育む学びへの意思を込めた。そして、今回の作品を考え始めたのは昨年の出品後すぐのことだと聞いた。
 「再生」の気持ちは、ロシアのウクライナへの侵攻(2022年2月〜)が続く中、ずっと長く抱き続けてきたという。2024年の南画院展では「祈り」を出品。アーチ越しの十字架の塔より、壊された街、何よりも傷ついた人の気持ちその心に、平和と再生への深い願いを込めた。作家の祈りの心象風景だ。その思いが連鎖して満開の桜へと導いたのである。『孫生え』の桜の若木が満開の花を咲かす。正に「命
 輝け」成就の瞬間、人も自然も同根なのだ。
 そもそも、このコンセプトに至ったのは「再生」という言葉があり、近所の桜、朽ちた古木からその言葉に結びついた。堀江さん曰く、作画期間の80%が、何をどう描くかを決めることだと言い切る。この「命 輝け」は墨の色にかかわらず、色彩をまとった満開の桜の生命感が宿っている。
 筆者の日本南画院への初取材は42年前、当時副理事長だった直原玉青の画室を訪ねたことに端を発するが、京都は河野秋邨、東京は河口楽土、大阪は直原玉青、清水要樹、月居偉光がいた。堀江さんが弊紙に登場するようになったのは1996年、第36回日本南画院展からで、白昼夢的表現に注目して時々会場で質問したが、いろいろと作画の話を交わす契機となったのは、町田泰宣理事長体制で2005年に復活した第6回中日美術交流展に弊紙と美術通信社、美術年鑑社に同行取材を依頼されてからである。中国の水墨の実態に接する機会を得て本当に有意義となったし、国土、国民性の違いから生じる表現の差異も感じる事が出来た。3年毎の開催で第8回展(2011年)まで同行したが、2005年の張家界の印象は今も強く残っている。年々東シナ海を巡る日中対立は苛烈となり、文化事業も政治利用される現在、残念ながら中国への渡航も難しくなっている。
 少子高齢化で本院も他展と同じく出品数減に苦しんでいる。そんな中で、歴史ある会を率いる重圧は相当なものがあると思われるが、堀江さんは笑顔を絶やさない。もともと色彩作品から入ったが、墨の世界に落ち着いた要因は好きな短歌を詠む世界観が南宗画(南画)の写意の表現と合致したから、また禅の教えと「気韻生動」の画禅一致の精神性に魅かれてきたからと語る。クリスチャンであるが、心は広く深い。また、写真で描くな、心眼(写意)も、と。 (松)