再興第103回院展より
−鈍色の空に飛翔する白鳥−
同人 今井珠泉
最近の院展には一点透視図法の作品が多くなっている。これは写真を下図とする作家が増えている証ともいえる。元来、日本画は二点透視、多点透視、俯瞰、逆遠近などテーマを具現するための最適な遠近法が用いられていたはずだが、それらの描法を根底において自分の眼でスケッチする、または、ディフォルメすることで、作家本来のモティーフの捉え方が確立していた。写真は遠くのものはより遠く、近くのものも小さく捉える。二眼と一眼の違いであるが、困ったことにファインダーに写るすべての事象を再現してしまう。だからそれを画面に移すと瞬間描写で動きが無く、省略すべきものまで描いてしまっているケースも多い。
そんな中、今展でおおらかな作品に焦点をあてた。実際、地味な作品といえるが、空気感があり鈍色の空一面に飛来する白鳥をほぼ真下から見上げた今井珠泉「飛翔」である。冬、シベリアから渡り来る白鳥、描かれたその色彩は決して純白でないが、空の色との対比でまさに白と認識できる。また、この絵は写真を再現したものでない。積み重ねたデッサンをもとにシチュエーションを鑑みて、構成されたものであろう。これまで、今井氏はイヌワシや大鷲、隼など猛禽鳥を描いてきているが、そのいずれもが生息する現地へと赴き、入念なデッサンを重ねて来た。だから気配がある。今作への作家コメントがある。「北海道には、冬特に美しいものを表現して『冬の三白』という言葉がある。(一)流氷、(二)丹頂、(三)白鳥がそれである。流氷と丹頂は何度か制作したことがあるが、白鳥、それも未知の世界に向かって大空高く飛翔している姿を描いてみたいと思い乍ら、果たせないまま年を重ね米寿を迎えるに至って、今描いておかないと、との思いが強くなり、今回やっと制作にこぎつけたものである」と。
米寿にして益々画域を深めている今井珠泉氏。更なるご健筆を期待したいと思う。(松原)
