第66回春の院展より
−大自然の中 孤高の雄姿を−
今井 珠泉
「春近し」
第66回春の院展より、今井珠泉「春近し」を紹介したい。
北海道のオホーツクからの流氷が知床に押し寄せる晩冬、雛の餌を求めて流氷の空に舞う大型の鷲を壮大なスケールで捉えた作品である。普通、日本画で表現する鳥は静的で、ムーブマンに重きを置いていない作品が多いが、本作品では、氏は冷気流をとらえ、羽根を微妙に変化させて大きく旋回しようとする様を、まるでグライダーの如く悠々と飛翔する孤高の雄姿として堂々と描ききっている。それは恐らく自らの生き様に重ねる思いがあってのことと推測できる。
今井珠泉は昭和5年、福島県の生まれ。東京藝術大学に学び、在学中に安宅賞を受賞しており、入学当初から有能さを認められていたと思われる。師が須田供中と前田青邨とあるから、恐らく入学前に須田 中のもとで日本画の基礎をみっちりと学んだのであろう。卒業の年の昭和31年、再興第41回院展に初入選を果し、前田青邨に師事。以降院展を発表の場として活躍、奨励賞、春季展賞の受賞を重ね、そして平成4年再興第77回院展に出品の「飛翔」が日本美術院賞・大観賞を受賞した。
この作品は今井氏の記念碑的作品といえる。金箔を施した夕景の林に、獲物を追って疾翔する一羽の鷹、風を切る翼、鋭い眼光が緊迫感を見事に演出している。この絵を完成させるために氏はどれほどの時間を要したであろうか。深い林に入り、鷹の飛翔のスケッチを重ね、重ねたに相違あるまい。そしてそのイメージの確立まで観察を繰り返したと思われる。「少しの妥協も許さない、青邨師のすざましいまでの姿勢」がしっかりと受け継がれている証であろう。
その後、氏は孤高の「鷲」に眼を向ける。87回展「風涛」、88回展「知床」、93回展「氷原にはばたく」と続き、94回展「静日(イヌワシ)静夜(流氷)」で文部科学大臣賞を受賞、95回展の大針葉樹林を飛翔する「颯」へと続き、今展の作品が生まれている。今や、鷲の孤高美は氏の画家魂と共存していると言える。現在、日本美術院同人・評議員。(松)
