第8回日展より
―古式灰汁醗酵建て正藍染の深みある世界―


日展特別会員
飴村秀子


「クムラン洞窟(死海文書)2」【染】

 

 染色工芸家・飴村秀子さんは敬虔なクリスチャンであるとお聞きしている。が、いずれの宗派に属しているかは知らない。ただ、日展と現代工芸展には旧約聖書、その予言書や歴史書から啓示を受けた、人としての生き方をテーマに作品制作を続けてきた。が、それらには、無償の愛ばかりでなく、戦いの書も多い。何と戦うのであろうか!聖書の世界では悪魔である。それは現実の姿でなく人の内面に巣食う強欲に他ならない。飴村さんの作品には人としての生き様を自分自身への問いとする一面をもっているのかもしれない。
 さて、今回の作品を私なりに読んでみたい。短いコメントを頂いたが、昔、死海文書が1947年に発見されたクムラン洞窟を訪れたとある。この文書の成立は様々な分析法などから紀元前250年から紀元70年の間といわれたが、後の研究で、1世紀頃との見解に至っているらしい。正に、キリストの生まれた後の写本と思われるのだが、イエス時代のユダヤ教の当時の実態が明らかになり、キリスト教誕生の実態に近づけるとの期待がうまれた。しかし、研究者の見解の一致はまだできていない。
 作品は周りを囲む藍の青と白く輝く部分に大別できる。白は石灰岩の洞窟、そこに穿たれた穴は入口のイメージだろう。周りの青は死海。このキリスト教史の大きなエポックの場に立った思いが、更なる生き方への確信へと導いたのではあるまいか。思考が浮遊するような構成がまたいい。
 飴村秀子さんは昭和3年呉市に生まれた。原爆投下の2日後、実家の安否を思い広島に入り原爆の惨状を目の当たりにした。その年に染色との出合いがあり、染色工芸作家花房花子に師事。ろうけつを学んでいる。昭和27年結婚、山口県に。創作活動に励み、県展、光風会展、現代工芸展に出品。日展初入選は昭和41年、この年に古式灰汁発酵建て正藍染めの作品に出合い、強烈な感動を受け、藍の自製仕込みを計画。この正藍染めが自宅の甕から生まれたのは昭和48年、徳島の古庄理一郎の指導と新居製藍所の協力を得て待望の念願がかなった。
 平成7年日展会員、同19年現代工芸で文部科学大臣賞。まだまだ、制作意欲全開だ。(松原)