土と炎の彩化
文化功労者
今井 政之 展
文化功労者・今井政之展。世界で初めて陶芸の世界に面象嵌の作品を完成させた作家であり、今井氏の初作品発表後に様々な面象嵌まがいの陶芸展をみかけるが、本体と見事に一体化させる今井氏の象嵌技術から導き出された陶芸美(形状美、焼成彩美、絵付け美)という美の要素に関して、他の追随を許さない。というよりも、いまだ進化をとげて引き離しているといえる。
何故なら、面象嵌は一朝一夕で出来上がるものではないからだ。昭和30年頃から始めた泥彩、苔泥彩の作品研究で土の収縮度のテストを繰り返した経験から、面象嵌への可能性を見出したと思えるが、象嵌土と本体の収縮率を合わせる工夫を重ね、恐らく気の遠くなるようなテストピースの採取を繰り返してきたからである。面象嵌の焼成に成功したのは昭和44年である。
そしてその後も絶えることなく、これと決めた異種土を組みあわせた焼成データをとり続けているからこそ新たな展開がある。その後、塩釜により象嵌表面の切れの良さを実現。更に収縮率の高い備前の赤土にも果敢に挑戦し、登り窯による窯変を加味した作品は周知のとおり。文化功労者の顕彰を受けた翌年(2012年)の個展には、釉裏金彩と燻し金の「金」をコラボ、そして今展には「象嵌志野」が出品された。恐らく世界初ではないか。まだ試行を通り過ぎた初めての作品と思えるが、この発展形態を大いに期待したい。
さて、紹介の図版は「象嵌彩窯変 海流想 大皿」。象嵌絵付けのモチーフは、カニと真っ赤な魚。魚は沖縄・石垣島で自ら釣り上げた「赤仁ミーバイ」というハタ科の高級魚。釣り上げて生きている間にスケッチされたという。今回は、特に「赤」がテーマとなった感ある作品群。深みある赤である。1200度を超える焼成で赤色をコントロールするのは極めて難しい。
今井氏の今展へのメッセージ、「……自然との共感を探し求め、生きものの命とその尊厳に出あい、対話する喜びを感じつつ日々精進を続けております。執念を持って面象嵌と感性の一体化を目指し、宇宙への存在感を昇華するべく制作してまいりました。」を付記させて頂く。 (松)
