日本芸術院会員
今井 政之 
傘寿展


― 精緻で幽玄な象嵌の美 ―


■9月29日〜10月5日

 ■日本橋高島屋6階美術画廊 

 

 

 会場に緊張感が満ちている。整然と展示された大小50余点の作品群から漂うオーラがそうした凛とした雰囲気を醸し出しているのだろう。色象嵌の第一人者としての存在感である。
 今井政之氏は、昭和5年大阪の生まれ。しかし、昭和18年に父の郷里広島県の竹原(現・竹原市)に移り住む。竹原工業学校を卒業後、岡山の備前市伊部に赴き陶技の修業を始めている。氏は4年の修業を経て、昭和27年に京都に移り、初代勝尾青龍洞の門を叩き楠部彌弌に師事、翌年発足した青陶会の創立メンバーとなった。余程の才があったのであろう、同年の第9回日展に23歳で初入選を果たしている。以降レリーフに工夫を重ねる仕事に没頭、そして昭和34年、29歳で日展特選・北斗賞を受賞、昭和36年勝尾夫妻の媒酌で結婚、翌年長男が誕生し、その責任感が更に仕事を進化させる。昭和38年に再特選するも、創作に没頭し試行錯誤の毎日であったと言う。テストを何度も重ね、重ねその中生まれたのが苔泥彩(たいでいさい)で、大地に苔むすような、モスグリーンのふわっとした感じの作品が昭和39年に発表された。折しも次男誕生の年であった。その姿勢が認められたと言えるだろう、翌年35歳という異例の若さで日展審査員に就任した。しかし、今井氏の創作への熱意はここから真骨頂をみせる。面象嵌への挑戦である。これまでも陶芸に象嵌は種々存在するが殆どが線象嵌で、異なった土の収縮率の違いで面象嵌は難しく、当時まで未完成の領域だった。氏は象嵌土と本体の収縮率を合わせる工夫を重ね、恐らく気の遠くなるようなテストを繰り返している。面象嵌の焼成に成功したのは昭和44年である。写生から生まれた微笑ましい魚介類、動植物が象嵌文様として命を吹き込まれる。この技術は世界屈指のもので他の追随を許さない。平成15年日本芸術院会員に就任、以降諸団体を離れ独自の世界を更に追及している。
 今回の傘寿記念展には、直径1mの大皿1対の備前を出品。より収縮率の高い備前の象嵌に挑戦、赤の発色が素晴らしかった。(松原)


 

木菟 大皿   径81.0 高11.0cm