第65回日本伝統工芸展より
− 優雅な佇まい 志野焼の魅力−


重要無形文化財保持者

鈴木 藏

 

 志野焼は安土桃山時代に美濃(岐阜県)で焼かれた美濃焼のひとつ。日本で焼かれた茶碗で国宝に指定されている2品の内のひとつが、志野茶碗「銘卯花墻」(三井記念美術館蔵)であることを承知の人も多いと思われる。(因みに、もうひとつは本阿弥光悦の白楽茶碗〈銘不二山〉) 耐火温度が高く、焼き締まりが少ない五斗蒔粘土や鉄分の少ないもぐさ土で成形した素地に長石を砕いて精製したシリカ(ガラス)系の長石釉を厚めにかけて焼かれる。焼成時に気泡が出来たり、冷却の際に素地との膨張率の差異で貫入が出来るのも志野焼の大きな特徴である。
 その志野焼に真っ向から取り組み、今や志野の代名詞的陶芸家といえるのが、重要無形文化財保持者の鈴木藏氏である。
 鈴木氏は昭和9年、岐阜県土岐市駄知町に生まれた。多治見工業高校窯業科を卒業後、窯業技師の父・鈴木通雄の助手として多治見の丸幸陶苑の研究所に勤務。志野、織部の釉薬の研究で一目を置かれていた父から陶土や釉薬の調製、陶芸の基礎を学んだ。その一方で桃山時代の美濃焼の古窯趾を歩き、志野、織部の技法に深い関心を持つようになり、実作の道に入った。昭和30年代に現代日本陶芸展、日本伝統工芸展において受賞を重ね、一躍頭角を表した。昭和43年に独立。志野焼は穴窯(一部登り窯)で焼成されてきたが、鈴木氏は自らの経験に基づいて耐熱保温、長時間焼成の独特のガス窯を開発、築窯。新たな志野、織部創作への道をつけた。昭和61年度芸術選奨文部大臣賞。平成6年には重要無形文化財「志野」の保持者に認定された。現在は平成2年に多治見虎渓山町に築窯された窯より名品が生まれている。掲載は、筒型に近い包容感ある柔らかな器容にたっぷりと掛けられた長石釉が梅が香の白となり、底部と口縁に薄く現れた緋色が対比して風趣を醸す。薄明かりに茶の緑が絶対に映えるであろうと誰しも思ってしまう「志野」の逸品である。不易流行を理念とする氏の成果に他ならない。(松原)
   

 

 

 


 

志野茶碗(奥行13.0 幅12.3 高11.4)