作陶六十年
平成二十三年度文化勲章受章
十代 大樋長左衛門
■10月19日〜25日
■ 日本橋三越本店本館6階美術特選画廊
大樋焼は、寛文6年(1666年)加賀藩の茶道奉行として裏千家四世、千宗室仙叟が五代藩主前田綱紀公の命により招かれた際、京在住の樂一入の門人、土師長左衛門を同道したことにより始まる。長左衛門は大樋村に最良の土を見いだし、飴釉を用いた仙叟好みの茶器を焼成、以降340年余り十代に亘る大樋焼の祖となった。
もう7、8年前になろうか、美術評論家協会の春の総会の旅行で石川県を訪ねたが、その折りに十代大樋長左衛門窯に寄せていただき、当代、先代の御茶碗で茶席を用意いただいた。また、歴代の作品が収まる展示館で八代、九代のもとに日本画、洋画、他の名だたる芸術家が訪ね、芸術談議に華が咲いた話しや、その折の座興の合作作品のエピソード等を興味深く語っていただいたことを思い出す。
十代はそんな環境の中で育った訳で、伝統の陶芸の家系に生れながらも、ただ職人芸を伝承するという閉鎖的な家風でない芸術指向の強い作家として陶芸の世界へ入ったといえる。
1949年、東京美術学校工芸科卒業後、古典伝統の技術を習得する一方で、現代空間にマッチする陶芸の在り方を摸索してボストンに留学し、アメリカの最先端アートに触れたと言うが、この姿勢が今なお貫かれている。とりわけ、現代工芸、日展作品の斬新性は群を抜いており、そのフォルム、色調、絵付けに独自の世界を指向、1967年40歳で日展審査員就任、58歳で日本芸術院賞を受賞し、現代作家としての地位を確立したが、還暦の年に十代を襲名して大樋焼の伝統を守り発展させるべく新たな命題「伝統と現代の融合」に視点を向けている。しかし、格式と侘・寂好みの茶道界のお茶碗に現代感覚の敷居は極めて高かったに相違有るまい。純伝統作を踏襲する一方で現代の粋を盛り込んだ作品を徐々に浸透させていくのである。その功績が認められ、1997年日本芸術院会員就任。2004年に文化功労者。
今展は作陶六十年と銘打っての個展。大樋焼の真髄の飴釉を駆使した伝統的茶碗と粋を演出した茶碗、水指、現代感覚の壺が並んだが、会期中に氏の文化勲章受章が発表され、大いに盛り上った。(松)
