今月の課題 「徒然なるままに」 編集主幹 松原 清
新型コロナウイルスが世界に蔓延し始めたのは、2020年の新年幕の内が過ぎた頃だった。まだ2年そこそこしか経っていないのだが、随分閉じ込められたという思いがある。世界の行き来は全く不自由になり、更に自由圏と共産圏との政治的行き詰まりで、国の領域侵犯、奪取など軍事的なキナ臭さが拭えない。実際にそれはロシアのウクライナ侵攻という軍事行動で現実化して、海外旅行など考えられない状況となっている。
今年1月からポンペイ展が東京国立博物館で始まったが既に終了。4月21日から7月3日まで京都市京セラ美術館で巡回展が開催されている。東京取材の折り、寄り道をしようかと思いながら、伺えないでいるが、懐かしい響きの「ポンペイ」、実は48年前にイタリヤ・ポンペイを訪れている。私がまだ22歳の時である。確か、23日間のJALパックヨーロッパツアーに参加し、そのコースにポンペイ観光が入っていた。ローマからポンペイに通じる高速道路、「太陽ロード」と呼ばれていたと記憶する。何時間かかったか正確な記憶はないが、随分と走った思い、途中イタリア独特の粘っこいカプチーノを初めて飲んだ思いも残っている。で、私の記憶の中のポンペイは発掘の真っ最中というイメージ。見学コースも整備は完全でなく、発掘品の展示もそう多くなかったように思う。ただ、埋もれた人たちや、生き埋め寸前の状況を目の前で見るという写真、ビデオでは伝わって来ない臨場感はあった。たぶん、今は発掘も大分進み、新発見の事物も多く発見されたであろう。ポンペイ展で予備知識をつけて現地に再度行ってみたい気もするが、やはり直接訪れたいと思うのは贅沢なことだろうか。
絵画、彫刻などの美術作品もまた同じ。やはり本物を直接味わうことこそ肝要であろう。今の美術評論の仕事とも密接に結びついているし、そういう機会が世界の不安定さで消えてしまうことが最大の危うさとして実感している。以前は1年に1度、自分のガス抜きのために海外にエスケープするわがままを通してきた。今は行きたくても行けない現実がある。戦争や災害で嘗ての歴史的名所や美術品が大変なことにならないか、こんな思いは杞憂で終わって欲しいものである。
みなさんは行ってみたい国、場所がありますか?このコロナ禍が収束するまでは、日本国内を巡ろうと思っている。知らない場所は山ほどあるし、そこで新たな発見もあるかもしれない。仕事は一所懸命やる。そして自分の時間も作る(作りたい!)。いつか行きたいでは、もう遅い年齢にきているかも。頭も足腰もしっかりした時に魅力的な所を巡ってみたい。徒然のままに去来する思いを記した。
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
A5版 272頁 定価2000円