今月の課題 「羊から申へ・旅もいい」 編集主幹 松原 清
新年あけましておめでとうございます。本年が皆さまにとりまして実り多き年となりますよう祈念申しあげます。
と、いうことで意外とあっけなく羊年が終わってしまった感あるが、実際は内外の政治的、文化的、美術的、小さくは全美的にいろいろあった。イスラム国のテロの驚異はいよいよ広がり、11月13日パリでかつてない規模の同時多発テロが発生。130名が死亡した。このため、ルーブルなど美術館も閉鎖との情報が飛び交った。現在は平常どうり開館運営されているが、ヨーロッパが危ないという意識が私達に芽ばえたことは否めない。むろん私個人にも大きな衝撃だった。
というのも、30周年のイベントが終わり身も心もクタクタになり、ようやく一息ついた頃に父の突然の死。想い一杯の別れに空虚感に陥った。長男としての私自身の今後の在り方、決断が近い将来必ず待っている。悩んでも仕方ない、最善を思いながら流れに任せようと決め、四十九日法要に。
そこで介護もやや軽くなることで、2年程空いた欧州の美術館巡りを、年が明けたらと思っているが、まだ国際線の飛行機は怖いものがあり決めかねている。
そんな中、新鮮なお誘いを実現できた。15面紹介の穐月明氏の美術館訪問である。本当に気分のいい一日を過ごすことが出来た。その補足を記させていただく。
私が穐月明氏から、長年構想を温めていた美術館の開館案内をいただいたのは、10月も半ばを過ぎた頃で、それも他の用件の電話のやりとりでの偶然が重なってのことであった。長期に亘る購読のお付き合いを頂きながら、25年前の近鉄百貨店での個展を拝見して凄い作家がいると感じて以来、実は一度もお会いする機会がなかったのである。是非一度お訪ねしたいとの返答が一通の案内状であったのだ。第一期展示三ヶ月の内、既に残すところ一ヶ月弱、土日のみ開館ということもあり、やっと都合がついたのが最終日前日11月28日の土曜日であった。加古川から穐月宅の美術館(伊賀市別府)まで車で約3時間半、ナビを頼りに阪奈道路を経由して伊賀路に入る。阪奈道路は初めて走ったが、すでに有料道路でなくなっており、一般道。しかし皆高速並のスピードで飛ばしている。季節は秋真っ最中、伊賀路に入ると好天に紅葉が美しい。木津川沿いのススキにも感動。こんもりとした小山の奥の大村神社に駐車。その上に椿に囲まれた武家風の建物が青山讃頌舎(あおやまうたのいえ)であった。一番奥に新築の美術館が見える。ゆったりとした造り、作品のお出迎え(誘ってくれるような作品)。何より、お茶室での穐月御夫妻の心暖まる接待が嬉しかった。茶掛に于右任の書、桃山時代かもしれないアメ色の使い込んだ萩茶碗。作品を一切誇らない静かな心。癒されました。
大阪から近鉄鶴橋経由の電車だと2時間内で最寄りの「青山町」駅に着くと後から分かったが、晩秋の伊賀路の夫婦旅もいいものであった。旅が新たな境地を拓くかもしれない。
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
A5版 272頁 定価2000円