今月の課題 「神戸・全美30 周年」」 編集主幹 松原 清
この4月号を発刊した時点で神戸・全美の30年目が始まる。いつもいつも取材・編集・原稿に追われ、気がついたら丸29年が経過していたというのが正直な気持ちであるが、よくぞ続いたものよと思う反面、これで良かったのかという反省もある。美術とはいったい何なんだろうかと改めて考えさせられる。そして、全美を発刊する意義はと。その中で確かなことは、数多くの作家の先生方と愛読者の方々に支えていただいたからこそここまで続いたということであり、その事実を素直に重く受けとめたい。そこで、一区切りとして、10周年、20周年、25周年に続いて、今年9月に30周年のイベント「美を継ぐ者たち㈽」と小宴を企画している。9月8日~13日まで兵庫県立美術館王子分館原田の森ギャラリーの本館2階(壁面約220m)と1階(壁面約90m)を既に予約しており、小宴は9月9日新神戸のANAのホテルで開催予定である。田宮文平氏の5年間に及ぶ「歴史の中の書」と、20周年後続いている今月の課題を纏めた「夢遥か㈽」の単行本化を進めているが、イベントの詳しい内容は目下検討中、早々に決定して御参加のお伺いをしなければならないのだが、その折りには何とぞ宜しく御高配いただけますようお願い申し上げるしだいです。
この仕事に携って、多くの先生方の薫陶を得た。そう思いながら神戸での初刊号(1986年3月1日号)をひも解くと、初刊の巻頭に、画・禅一如の東洋精神を貫いて直原玉青を紹介させていただいている。101歳で天寿を全う、生涯現役を貫いた人で慈愛心をもち、晩年には身近に接するだけで生きる勇気をいただいた。初年度の9月号の巻頭には、藝術院賞受賞後3年・気鋭の大山忠作氏を紹介している。同、一面には当時の東光会で最古参の河井達海氏の個展。達海氏は思うところがあって、昭和51年に日展を退会しているが、その主張がふるっている。「生活もあるだろうが、売絵と作品を描き分ける人がいる。年をとると買い戻したくなるものだ。まして、人を指導せねばならない人がそういうことでは困る」と。10月号巻頭には彫刻界のアウトローを自認する石彫家の鈴木政夫氏、鈴木氏には氏の最期の時まで叱咤激励されたが、「民衆美論」は脈々と私の美観のエキスとして生き続けている。また、闘鶏のモティーフで自身の世界を築きつつあった清原啓一氏も取り上げている。そして、12月号に東山魁夷氏の日展出品作「溪音」を紹介させていただいた。その月、日展を紹介しながら結構厳しい日展への提言を「今月の課題」で記している。少し抜粋しよう。
「藝術が他者の評価により発展するものである以上、歴史ある団体の責務はそれ相応のものがあるということを自覚せねばなるまい。日展はいわば日本美術界の顔である。その心が歪めば自ずからその顔相も歪むものである。何のために日展があるのか、出品するのか初心に戻り考えなければならない時期に来ているのではあるまいか。……権力の誤用は必ず内部矛盾を生み、形骸化を促進させるものである。したがって権力を持つものは、それに相応しい人格者であることが要求されよう。」不肖筆者35歳の怖れをしらない記述である。
随分と前置きが長くなったが、イベント会場に弊紙29年間の全刊行物を並べ、自由に見て貰えるコーナーも準備したいと思っている。
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
A5版 272頁 定価2000円