今月の課題 「24 年振りのフィレンツェ…そしてパリ」(3) 編集主幹 松原 清
翌日、ワイファイを使おうとして、とんでもないミスをしていたことが分かった。実は購入時にパスワードなど必要な手続きをしなければならなかったのである。後からはどうも無理らしい。大きく見込みが狂ったが、気持ちも新たにカード購入後に入館しようと後回しにしたサン・マルコ美術館を一番に訪ねた。
ここには、ベアト・アンジェリコのフレスコ画「受胎告知」がおさめられているのだ。再会を期待して入り口に向かうが、どこか雰囲気が違う。確か24年前は鉄扉から入った記憶がある。花々の咲く庭を巡って入場料を払い、螺旋階段を上ると「受胎告知」が目に飛び込んできたのだが、どうも様子が違う。修道院の大きな正門の扉から入って、木の階段を登りつめた真っ正面にいきなり「受胎告知」が掛けてある。どうやら改修したようで、私的には以前のほうが良かったと思ったが、やっぱり静謐の美の極地。初めて見るS氏やM氏、Hさんはしばし呆然。ここも写真撮影禁止となっており、結局フィレンツェの殆どの美術館が禁止措置をとっていることが分かった。ここは多くの小部屋にキリストの磔刑像があり、いかにも修道院のイメージが強かったが、ギルランダイオの「最後の晩餐」も見所のひとつだろう。
次のアカデミア美術館へは50メートルほどの距離。もちろん、ミケランジェロ「ダヴィデ像」が目当て。土台を含めて434センチの巨大な大理石像で、ミケランジェロは、人体に関する知識を駆使して骨格、筋肉、血管まで表現しており、凛とした表情は、ゴリアテとの戦いに臨む緊張感を孕んでいて迫力がある。ぐるっと周りを囲んだ展覧用のスペースがあり、全方位の姿が確認できるのがいい。ウッフィツィ美術館横の広場にレプリカ(石膏?)があるが、本物はひと味違う。
次の予定はドゥオーモであったのだが、土曜のミサで入場できず、それじゃあウッフィッツィに再度行こうと歩いたが、カードでの再入場は出来ないことが判明。朝からスケッチに出かけていた画家のT氏と合流し、軽食後にピッティ宮のパラティーナ美術館へと。ここにはラファエロの名画「椅子の聖母」などの聖母子など9点、ボッティチェッリも多い。カラヴァッジョの晩年の作「眠るクピド」も珠玉の1点だ。ここを出たのは4時過ぎ。このピッティ宮の丘陵上に要塞があり、そこからフィレンチェの眺めを見たいとS氏ひとり頑張って歩いてあがったのだが、入場時間切れで入れなかったとげっそり。我々はホテルに向かう途中、テイスティングできる樽ワイン販売所(大きなデパート内)を見つけてほっと一息をついた。
次の朝は、フィレンチェの台所、中央市場に向かう。肉類、魚、野菜、果物、チーズ、ハーブ類、オリーブオイル、トリュフなど山盛りで、妻はこれが、第2の目的でトリュフ入りのオリーブオイル、トリュフ入りの岩塩をしっかりと買っていた。市場の周りは屋台のお土産やさんが祭りの市のように並び、ベルトなど革製品が買い得と思えた。画家のT氏は朝からスケッチ、我々は街をぶら歩き、ドゥオーモ附属博物館へ。そこに修復完了のギベルティーの「天国の門」が展示されていた。また、訪問前にHPに「マグダラのマリア像」があるとの情報があったのだが、どこにもない。つくづくこの木像に縁がない。で、気をとり直してジョットの鐘楼に挑戦することに。 続く
全日本美術『今月の課題』の
1996~2005年を単行本に
全日本美術編集主幹 松原清 著
A5版 272頁 定価2000円