アトリエ訪問

新連載 第20回



アトリエ訪問 新連載 第20回
洋画家 内田恵市さん
 ―街に息づく道祖神 ―
訪問者:中野 中


 内田さんは道祖神ばかりを描いている。12年前の新作家展初出品の折、初めて彼の道祖神に出会い、モティフのこだわりと共に、何となく郷里の風を感じ懐しく思ったことを覚えている。

アトリエにて

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 彼が生まれ育った向島(いわゆる下町)の路地の突き当たりにお地蔵さんがいて、子供たちが集まるランドマークでもあった。
 生家はうちわや扇子、またカレンダーなどの絵付けを業とし、彼は見よう見まねでその絵を写して楽しんでいた。
 様々な事情で、高校は定時制に進み、昼間働き夜に学ぶ4年間の学生生活の中で、英語の教師が彼を絵の世界に目覚めさせ、美術部の仲間とルオー遺作展を見、ホンモノの迫力に圧倒され、祈りの世界に惹き込まれた。

「寄り添ふ」  F100 2013年(第21回新作家展)

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 教職を辞して(59歳)間もなくの頃、男女が仲睦まじく寄り添う石仏と雑誌で出会った。微笑み、語りかけてくるその姿は、子供のころ馴れ親しんだ下町の地蔵さんの導きかと思うほどの衝撃だった。
 この「双体道祖神」との出会いを契機に、安曇野(長野)をはじめ、倉渕(群馬)、秦野(神奈川)、品川(東京)など、意欲的な取材が始まった。
 彼は語る。「どの地の道祖神も出会いの瞬間は、それはそれはとても不思議なものなんです。出会った瞬間、道祖神だけが光り輝いて周りの風景はかすんで見えない。それがしばらくすると今度は、道祖神が周りの景色の中に溶け込んでいくように見え、見ている自分も吸いこまれていくような感覚に浸るんです」と。

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 英語の授業の教材だったゴッホの伝記、その挿絵で知った「アルルの寝室」。すでに触れたルオー体験。あるいは司法試験を目指す若い社会科の講師の下宿先での仲間との読書会や、夏のテント担いでの登山。
 内田さんはいつも一途で精力的で一直線。しかもその幅は広く、感性も豊かなのだ。
 教職中も絵から離れることはなく、29歳での銀座の初個展以来、何度も個展を重ねている。地蔵さんの導きで出会った道祖神にモティフは絞られ、いつしか“街に息づく道祖神の画家”と呼ばれるようになっていく。




「明日に」  F100 2024年(第31回新作家展)

 

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 掲出の〈寄り添ふ〉は双体道祖神の仲睦まじい姿をアップで、〈明日に〉は微笑む道祖神たちが明日を照らしている。
 アトリエのスナップの内田さんの笑顔は、あらためて道祖神の微笑みに見えてきた。
 かれこれ10数年の付き合いだが、彼の大声や怒りに出合ったことがない。芯の強さが確としているからこそであろう。

* 1949年東京・墨田区生まれ。2013年、新作家展に初出品。現在・新作家美術協会委員。町田市在住。