アトリエ訪問

新連載 第18回



アトリエ訪問 新連載 第18回
洋画家 加藤増男さん
 ― 自然の生命への畏怖、敬意―
訪問者:中野 中


 最寄りの新小平駅(武蔵野線)から車で10数分、幹線道路から逸れた閑静な住宅街に、加藤家はある。コンクリート3階建の地下に、広いアトリエがある。
 まさに加藤さんの城である。たまに顔を出す会社や知人友人の展覧会、医者への通院へ出かける他は、終日、アトリエで過ごす。倦きることはないが、制作に疲れれば、ソファで横になり、時には友を迎えて宴会場になったりもする。

アトリエにて(制作中の120号の前で)

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 東京大空襲(昭和20年)の直前に、病身の父親ら家族で深川から母の郷里の山梨へ疎開。間もなく父は亡くなり、母に苦労をかけるので上京はしたものの、敗戦後の東京では、仕事もままならずで転職の連続で、若い増男さんの苦労もひとかたではなかった。27歳で結婚、ようやく落ち着いたようだ。
 子供のころから絵は好きで、サラリーマンになってからは、地方へ出張の折にスケッチブックは欠かさなかった。
 そんな加藤さんを見ていた娘さんから、勤めを70歳近くで退いた時、油絵具セット一式をプレゼントされた。これを機に本格的に絵を描くことにした。 それ以前から、しかるべき画家に油絵のいろはからひと通り学んでいたというから、画家への道は、すでに敷かれていたのであろう。
 人柄そのまま、何事にもまじめで熱心、真撃に立ち向かい、絵に対する努力研讃は並々ならぬ集中であった。とあらためて感じたのは、アトリエに掛けられた、フェルメールの「ミルクを注ぐ女」や「耳飾りの少女」またホセ・デ・リベーラ(ジュセッぺ・リベーラ)の「盲目の彫刻家」の12号ほどの模写を見てであった。ジュセッぺの武骨なまでの気迫、フェルメールの光と構成に学ぶところが多かったであろう。

「縄文杉」  53×22cm 油彩 2023年

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 今春、加藤さんは銀座では広いスペースを持つ画廊(ギャラリー暁)で、20年間の総集編とも言える個展を開いた。“八十八(米)寿記念”と決して謳わずに。そこに、“まだとりあえずの通過点”と言う意志をみた。
 家族図や仲間たちの顔々、あるいは、小山敬三記念小諸公募展で連続4年企業賞受賞作品群に、屋久島や滝シリーズの大作が並んだ。
 縄文杉を描く“屋久島”は70歳代後半に、数年遅れて白糸の滝(富士宮や軽井沢)のシリーズが始まった。杉にしろ滝にしろ、初期は物に応じて形を象かたどり、次第に物と応じて、つまり対象と対話し、心を通わせ、その呼気吸気と己れをシンクロさせるようになった。そこに自然への畏怖、生命への敬意がこもるのだ。




「信者」  41×32cm 油彩 2023年

 

*1935年東京に生まれる。2006年新世紀美術協会多摩展、翌年から本展に出品。現在、同協会会員、新耀展会員、日本山林美術協会会員、等。