アトリエ訪問

新連載 第13回



アトリエ訪問 新連載 第13回
アーティスト コルドバッチェ・マンスールさん
 ― あせらずあわてず ひたすらに ―
訪問者:中野 中


 マンスールさんは、とにかくエネルギッシュな人だ。絵を描き、彫刻をつくり、3つの公募展で活躍し、さらに居酒屋の店主というもう一つの顔を持っている。
 1964年イラン・イスラム共和国テヘランに8人兄妹の2男に生まれた。14歳のころから絵を始め、イランで有名な画家に師事。イラン・イラク戦争で従軍するなどブランクはあったが、戦車や砂漠の風景などスケッチは怠らなかった。
 '88年来日、テヘランの日本企業に就職したく日本語修得のためである。ところが戦争のためその企業は閉鎖。行き場を失った彼は、学校とアルバイトに追われ、絵を忘れたわけではなかったが、中断していた絵を描きたい思いが募り、日本に残ることにした。

アトリエで作品に囲まれて

 

 間もなく結婚し、奥さんと居酒屋を始めた。その客の一人、画家(鶴田松盛さん)にすすめられ再び本格的に絵を始めた。まさに居酒屋は出会いの場である。
 店の休日のたびに先生のアトリエに通い、'95年めでたく二科展に初出品、初入選を果たし、以降4回連続入選。ここで欲が出て日展に挑戦したが、やんぬるかな10年連続落選の憂き目に会ってしまった。
 店の厨房に、
  あせらず
  あわてず
  あきらめず
 と書かれた貼り紙がある。日展落選が続いた折に知人から贈られた言葉で、以来、マンスールさんの人生の“座右の銘”になった。
 この銘のとおり臥が薪しん嘗しょうたん胆。2007(平成19)年、ついに日展初入選を果たしたのである。
 この間、白日展にも出品('00年から)。また、日展入選を機に彫刻にも挑戦している。まさに貪欲・意欲の男である。
 ダイナミックでドラマに満ちるマンスールさんの来歴に行数を費やしているが、もう一つ、作品のサインにつけられた“……”のことに触れたい。
 来日以来、結婚し二人の娘さんに恵まれ、幸せにすごされている。それでも、自分のイランの家族と遠く離れ、親戚も友人もいない外国生活は、精神的にも心情的にも悲しくつらく、人知れず涙流すこともあろう。“……”はその涙。すべての涙はそこで流して、日々の生活では笑顔を忘れずにしようということなのだ。

「姉妹」 2014年(白日会創立90周年記念展)
油彩F100号

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 さて、作品について触れなければ、訪問記を終わるわけにはいかない。
 マンスールさんの作品には、二科展初入選よりずいぶん早くに、国際美術大賞展(現在、常任理事)で出会っている。その初期のころから娘さんをモデルに描き続け、日展の初入選もそうであり、いわば娘さんの成長記録でもあり、画業の軌跡の辿りともなっている。
 「姉妹」はチャドルをまとった瑞々しい姿を力強い愛情いっぱいの筆致で表現。「風呂あがり」は絵と2度目のダブル受賞の端麗な裸婦作品。因みにアトリエでのスナップの顔像は本人像である。
 今年の日展(11月4日から)にはどんな作品に出会えるだろうか。3度目のダブル受賞は?




「風呂あがり」
彫刻 2020 年( 改組 新 第7 回日展)