アトリエ訪問

新連載 第8回



アトリエ訪問 新連載 第9回
洋画家 塚田 稔さん
― 人間の内面世界への切り込みの鋭さと深さ ―
訪問者:中野 中


 新宿駅から小田急線特急で約30分、最寄りの駅から車でほど近くに塚田邸はあった。玄関を入ると、コレクションの仮面などが飾られた広い応接間があり、隣りの書斎には壁面を埋める専門書の本棚を背に机が二つ仲良く並んでいる。塚田さんは脳科学専門の研究者であり、奥様は大学教授退任後も専門の食物栄養学の方面で、共に現役として活躍されている。



アトリエの壁面を埋めつくす
コレクションの仮面や人形、作品、書籍など。

 

 アトリエは2階にあり、階段脇の床には細長い切り込みがあり、そこから大作を階下に降ろして搬出できる仕掛けになっている。
 塚田さんは昭和16年松本市に生まれ、東北大学大学院研究科で電気および通信工学専攻博士課程を修了(筆者にはそれが“脳”にどうつながるのか理解不能)。
 父はギターなどを作る機械木工の専門家で、絵が好きだった。その影響であろうか、大学院修了後、本格的に絵の制作を始め、同58年に横浜風景美術祭で準大賞、川崎市美術展で奨励賞、そして現在、理事・洋画部長を務める日府展に初入選・新人賞を受賞。いわば画壇への実質的デビューをした。42歳であった。
 このトリプル・プライズの背景には同54年から56年にわたるミュンヘン滞在にあった。脳科学研究者としてでだが、塚田さんは時間をみつけては美術館やスケッチに勤めた。そんな中で中世のイコンに惹かれた。その感動がいまに続く金(黄)・黒・赤を基調にする配色である。
 右の受賞作は筆者は未見だが、3年後の『壁面の人形』に明らかに見られる。この作品に添えた奥様(塚田信)の詩がある。「俺達〜うらぶれ人生よ」気弱な男にあばずれ女。/手を取り合って生きている。/一人ではねぇ〜 二人でいればどうにかなるさ。/こんな生き方も悪くはないよ one way?
 



壁面の人形  100F 油彩1986年

 

  あらためて思うのは、スタンスに少しもブレのないことである。黒と原色の絡み合い、加えて大胆な構成が発するインパクトの強さに眼を奪われるが、その作品の魅力の要鼎は、人間の内面世界への切り込みの鋭さと深さにこそあるのだ。
 内在する原始的な生命力ゆえに理性では制御しきれ得ぬ欲望(自我)、あるいは同居する聖と俗など二律背反の同居のカオスを、また収拾のつかなくなって暴発する脳内状況や、二つの矛盾した概念をさらに高い段階で調和統一する止揚(アウフヘーベン)など、脳科学研究者ならではの構想こそが独自性の根源か。
 新作の『懼れるなかれ我共に戦わん。』は世界の普遍的テーマであり、悩み煩悶する裸婦の登場は塚田ワールドの新展開を予見させる。
 再び奥様のご登場を。




懼れるなかれ我共に戦わん。 150F 2021年

 

 絵と出会い、人と出会い、共に歩み続けて。/一時期、絵に熱中するあまりの日々。/「こんな絵は止めて欲しい」と思ったことも。/でも、絵の情熱は私の不平不満を「押し倒して勝ち〜」。塚田 信